だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

274.戦いの前に

 久々に男装した気がする。
 魔法薬で髪の色を金色にして、後ろで一つ結びにする。サラシで胸を潰してシャツとズボンを身に纏い、襲撃者らしいローブを羽織って変装は完了。
 そこでおまけに口元を覆う等の覆面をしたら……もう私が誰だか分からない事だろう。
 しかし……うむ。ソワソワとしながら私の着替えを見守っていたローズが、今も尚随分と目を輝かせている。

「はわわわぁ〜〜〜〜っ! 男装の麗人だぁ……!」

 着替えてる間も、こんな感じの事をずっと言ってた。ものの試しにウインクなどしてみたところ、ローズは「はうっ!」と胸元を押さえている。
 なんだろう、ちょっと楽しいなこれ。

「そろそろ行きましょうか、レディ。お手をどうぞ」
「えっ、え!?」

 何となく、王子様ムーブをしてみた。するとローズが頬を赤くしてモジモジとし始めたのだが、とにかく可愛い。
 なんて考えながらローズをエスコートし、部屋を出て少し歩くと開けた部屋に辿り着いた。そこには既にイリオーデとアルベルトが立っていて。
 二人も魔法薬で髪の色を変えて、更には変装もしているので中々に元の姿からは変わっていた。
 イリオーデは髪を紫色に変えて、長髪を結えずそのまま流しているようだ。アルベルトはまず女装をやめてから、黒髪を白色に変えているらしい。
 それだけでも印象がかなり変わるものだ。相変わらず二人揃って美形ではあるのだけど。

「王女殿下、そのお姿は……」

 イリオーデがこちらに気づいて目を丸くする。その隣でアルベルトも灰色の目をぱちくりとさせていた。

「じゃじゃーん、男装してみました! 久しぶりにしたけど……ふふっ、似合ってるでしょ? 私ってば男装も似合うんだから」

 以前男装した時は金髪のカツラを被っていたから、今回もそれに合わせて金髪にしてみたけど……相変わらず我ながらよく似合っている。
 ふふん。とドヤ顔で胸を張る私を見て、イリオーデは随分と温かい頬笑みを浮かべた。それはもう、思春期の女の子なんて一発でノックアウトしてしまいそうな笑顔である。

「金色の御髪も、まるで空に輝く太陽のごとき輝きと美しさにございますれば……我が瞳などその眩さに焼かれてしまいそうです」

 急にどうした。いや言う程急ではないんだけど。かなりいつも通りなんだけど……どうしてそんないい笑顔で褒め言葉を口にするのよ。
 イリオーデの怒涛の褒め言葉に、私の隣でローズが激しく首を縦に振っている。度々「わかります」「そうなんですよ」と言った呟きも聞こえて来る。
 そんな、饒舌なイリオーデに続くとばかりに口を開いたアルベルトだったが、彼は少し毛色が違った。

「金色…………騎士君が言った通りにとても美しいものなのでしょう。俺も、見てみたかったです」

 その表情からは彼の物悲しい思いが伝わってくる。アルベルトの眼は赤色以外の色が判断不可能で、ほとんどがグレースケールで眼に映るらしいのだ。
 何とか治してあげられたらいいんだけど、師匠もこればかりは難しいって言ってたし……。ミカリア辺りに頼めばなんとかなるのかなぁ。
 今度ミカリアに手紙でも出してみようかな。帝国の王女からの手紙なら、多分ミカリアの元に届いてくれる事だろう。

「何度も言うようだが、私の名前はイリオーデだ。いい加減覚えろ。それはともかく……少し雰囲気の変わられた王女殿下のお美しさについて、私が口頭で説明してやる事もやぶさかではないが」
「いいのか? それじゃあ頼んでもいいかな」
「任せろ」

 いつの間にか、イリオーデとアルベルトが変な方向に話を進めていた。イリオーデの富んだ語彙力と叙情的な語り口調が、色を認識出来ないアルベルトに様々な色についての情報を伝えている。
 ……内容は、私の容姿についてだが。
 それにしても仲良いわね、この二人。本当に仲が良いわ。主の私を差し置いて仲良くなるとかちょっとどうかと思うけど……私とも仲良くなろうよ、ねぇ。

「あの、アミレスちゃん。ルティさんって女性だよね? なんというか、男装にしては男性らしすぎる……というか」

 ローズがこっそりと耳打ちして来た。

「あぁ、うん。ルティは元々男性だよ。訳あってずっと侍女の格好をしてたけど」
「え!? で、でも……アミレスちゃんはルティさんにお世話を任せてるんだよね……?」
「表向きにはそういう事になってるけど、実際には世話なんて任せてないよ。全部自分でやってるから」
「ぜんぶ、じぶんで?」
「だって自分で大抵の事は出来るんだもの、自分でやった方が良くないかしら?」

 王女が全部自分でやってると言ったからか、ローズはぽかんとした顔で小さな口を丸くしていた。
 少し間を置いてから、「……なる、ほど?」とゆっくり私の発言を噛み砕いて理解してくれたようだった。しかし程なくしてハッとなり、ローズは改めて私に詰め寄って来た。
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