だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

500.Main Story:Ameless

 国教会から親善使節が来たというのに私は愛しのミシェルちゃんに会えずじまいだった。
 フリードルとマクベスタが随分と真剣な様子でミシェルちゃんに極力会うなと言ってきたのだ。それをどうにも無碍に出来ず、辛酸を嘗めながらもその言葉に従い、翌日。

 ついに来たぜ、食事会!
 食事会とは名ばかりの立食パーティーだけど!!

 朝から私は元気だった。飛び起きた私を見て、起こしに来たナトラと一緒に寝ていたセツが目を丸くしていた程。
 その後は侍女の度肝を抜きつつ踊るように着替え、舞うように身嗜みを整える。

 そうっ、全ては大好きなミシェルちゃんとのファーストインプレッションを最良のものにする為! 
 悪役令嬢らしくヒロインとの良好な関係を築いてみせる! 決して下心とかではない。あくまでもハッピーエンドの為だ!!

 きっと誰よりも立食パーティーを楽しみにしていた私だったが、ここでまさかの緊急事態が発生する。
 なんでも西部地区に謎の魔物が出現したらしい。連絡用魔水晶からメアリーの『なんか変な魔物がうじゃうじゃいるの! 街の皆を守るので精一杯で……とにかく姫助けてーーっ!』なんて焦った声が聞こえてきて、迷わず西部地区に向かう事に決めた。

「イリオーデ、今すぐ西部地区に向かうわよ! ルティはケイリオル卿の元に向かって、この後の食事会を欠席する旨を伝えてきて!」
「はっ、準備は整っております」
「仰せのままに。命令を完了次第、主君の元へ向かいます」

 突然の命令にも動じる事なく、アルベルトは影の中に潜った。
 着替えている暇はない。動きづらいだろうけど、このまま向かおう。

「ナトラー! あとシュヴァルツもいるー!?」

 部屋から飛び出し廊下に出るやいなや大声で叫ぶ。
 シルフは一昨日、フィンに引き摺られて精霊界に仕事の為に連れ戻されたので不在だ。その為、何故か毎日暇そうなシュヴァルツに頼みたい事があるのだが……。

「おう、いるぞ。妙に騒いでたみてェだが、どうした?」

 悪魔らしく纏った闇を弾き、シュヴァルツがどこからともなく現れる。その直後ドタドタドタと大きな足音が聞こえたかと思えば、

「我を呼んだか!」

 超高速スライディングでナトラも現れた。これをターボナトラと呼ぼう。

「ナトラは東宮の前で待機してる馬車に帰るよう伝えてきてくれる? 私、今すぐ行かなきゃいけない所があるの」
「構わんが……行かなければならん所とはどこじゃ?」
「西部地区よ。トラブルがあったみたいで、メアリーから救援要請があったの」
「トラブルとな。それは仕方あるまい……じゃが、お前はよいのか?」

 え? と素っ頓狂な声が漏れ出る。
 ナトラは真剣な様子でこちらを見上げ、更に言葉を続けた。

「お前、今日の食事会を馳走を前にした幼子のように楽しみにしていたではないか。だというのに、それを軽々と放棄してもよいのか?」

 ここ数日の落ち着きのなさと、今朝からのハイテンションっぷり。それを知るナトラは私がこの食事会を──ミシェルちゃんに会える日を心待ちにしていた事に、気づいていたらしい。
 だとしても、

「民の安全を守る事こそが王女の役目。それに……部下が助けを求めてるのなら、上司としてそれに応じない訳にはいかないわ」

 私情塗れのちっぽけな願望より、ずっと大切なものがある。
 守らなければならないものがたくさんある。
 その為ならば私はいくらでもこの身を捧げよう。誰かの為に生きる事しか、私には出来ないのだから。

「……そうか。お前自身がそこまで言うならば、我から言える事など何一つあるまい。──あいわかった。お前の頼み、この緑の竜がしかと聞き届けたぞ」
「ありがとう、ナトラ。よろしくね」
「うむ!」

 どこか大袈裟な語り口ではあるものの、ナトラはニッと笑い駆け出した。
 あっという間に見えなくなった翡翠色のツインテールを脳裏に思い浮かべつつ、今度はシュヴァルツに話を振る。

「シュヴァルツにも頼みが……」

 しかし、私の言葉は途中で遮られた。

「西部地区に行きたいんだろ? そこまでの足でオレサマを使おうって魂胆か。マジで不敬だよなァ、お前さんは」

 相変わらず察しがいい。シュヴァルツはくつくつと笑いながら、その場で空間魔法を使用した。
 内容は当然瞬間転移。白い魔法陣に照らされながら、私達は西部地区へと移動した。
 シュヴァルツが西部地区の中で最も行っている場所だからだろうか。転移先はディオの家の中。目を開けた途端、私はメアリーに飛びつかれた。

「姫〜〜っ! もう来てくれたんだ! あっ、ドレスすっごく可愛い……じゃなくてありがと〜〜〜〜!!」

 危機的状況らしいが、こんな時でもメアリーはお洒落に目がなかった。今日はミシェルちゃんに会えるからといつも以上に気合いを入れておめかししたもの。そりゃあ可愛いに決まっている。
 ……まあ、その予定はつい今しがた消し飛んだのだけど。これは必要な犠牲でした……。

「来るに決まってるじゃない。──ここにはメアリーとディリアスしかいないの? バドールはともかくクラリスは?」
「クラ姉は変な魔物が現れてすぐに剣持って飛び出したよ」
「あの人まだ産後二週間も経ってないわよね? 何やってるの?」
「バド兄が涙目で止めたんだけど、『街の人達が心配だ!』って言いながら……」

 これは──流石にバドールに同情するなぁ。
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