だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

510.Main Story:Ameless

 セルリアンブルーの絵の具をベタ塗りしたようなムラ一つ無い空。その中心には目を焼く程に眩く輝く太陽が。
 それを見上げる私の鼻をくすぐる潮の匂い。

 ──やっぱり海はいいわね! 自由って感じがして!

 穢妖精(けがれ)事件の五日後。私は、アルブロイト領にある帝国最大の港町ルーシェに来ていた。
 あれから数日間は通常業務に加えて始末書や報告書、更には西部地区の復興修繕及び被害者達への支援の手配等に日々を費やし……予想通り、私はミシェルちゃんに会いに行く余裕がなかった。

 そして今日は元々入っていた予定──スコーピオン社との仕事(・・)の為に、遠路遥々ルーシェまでやって来たのである。
 だが今日は魔王運送もチートオブチートタクシーも利用していない。何故なら、数日前よりシュヴァルツは『ちょっと調べたい事がある』と言って魔界に戻っている。
 そして、カイルはミシェルちゃんの祖国代表としてこの私を差し置き食事会に参加したらしい(マクベスタ談)のだが……何やら忙しいようで食事会以降は東宮に来ておらず、彼にも頼めない。
 というわけで。偶然にも丁度仕事が終わったからと遊びに来たシルフが、瞬間転移でここまで送ってくれたのだ。

「へぇ、ここが例の港町か。エンヴィーから聞いてはいたけど、同じ国とは思えないくらい帝都と違うね」
「ルーシェは帝国最大の貿易港ですから。他国の民も多く集まり商談の間はこの街に滞在するので、異国風情溢れる街になったそうです」
「詳しいね、メイシア」
「我が家の商会もこの貿易港は利用してますので、当然の知識です」

 シルフとメイシアが海ではなく街を眺めつつ言葉を交わす。
 何故多忙なメイシアがここにいるのかというと、彼女も私の仕事に深く関わっているからである。なので今日は私の補佐として一緒に来てくれた。

「海か……懐かしいな。昔は避暑がてら兄と共に海辺で遊んだ覚えがあるものだ」
「オセロマイト王国は大陸の端にありますから、海に面している場所もフォーロイト帝国より多いのでしたね」
「えぇ。フォーロイト帝国の隣国故か、北側の海は季節問わずかなり冷たかったが……夏はそれが寧ろ救いだと感じましたよ」
「夏場の冷たい海はさぞや気持ちがよいでしょう。僕もいつかは体感してみたいです」

 私を挟んで立ち、潮風に髪を揺らしながらマクベスタとミカリアが談笑する。
 正直、この二人はなんでいるのか分からない。
 マクベスタは『妙な悪寒がするんだ』と何かから逃げるように毎日東宮に来ていたので、その流れで今日の仕事にも護衛(・・)として着いてきた。
 ミカリアは本当に分からない。なんか気がついたらいた。怖い。

 話は戻るが、今日はなんとイリオーデとアルベルトが不在なのである。
 イリオーデは……これまで数年間躱し続けたものの──実家(ランディグランジュ)の元老会議に参加しろとのお達しが届いただけでなく、ランディグランジュ侯爵直々に迎えに来られてしまい、逃げるに逃げられず昨日から領地に帰省中。
 アルベルトにはちょっとした調査を任せている。なあに、ただのゲームで起きたイベントに関する調査だ。

 護衛の二人はいないが、その代わり護身用に白夜とアマテラスを佩いている。これでいざという時は戦える。
 それに加え今日はシルフもいるし、戦力的な意味では問題はなかろう。
 そう思っていたら、いつの間にかメイシアとマクベスタとミカリアが同行する事になった。あまりにも過剰戦力だ。

「スコーピオンとの約束の時間までまだかなり時間があるし……観光でもする?」

 くるりと振り向いて同行者達の意志を確認すると、

「じゃあボクとふたりきりでデートしようよ。久々にアミィと過ごしたいなあ、ボク」
「ではショッピングはいかがですか? この街にもシャンパー商会の傘下店がいくらかございますので!」
「僕はまだこの辺りの地理に詳しくないので、叶うならば……姫君にご案内していただけたら幸いです」
「お前のしたいようにすればいい。オレはそれに従うよ」

 四人の間を閃光のような火花が駆け抜けた。
 あれれ、目の前に選択肢があるような気がしてきたぞぅ。これってあれよね、乙女ゲーム的に言えばルート分岐的な選択肢。
 ここが乙女ゲームの世界ならば、選択肢によってルートが変わり、各ルートで好感度に関わる何かしらのイベントが起きる筈だ。

 ……──ここ、乙女ゲームの世界なんだよなあ。
 でも私、悪役王女よ? 二作目ではモブ同然のサブキャラよ? 攻略対象に呆気なく殺される前作の悪役キャラよ?
 ほなルート分岐の選択肢とちゃうかぁ。焦らせやがってよぉ。

「君達はいつもアミィの周りを彷徨いているんだから、たまにはボクに遠慮しようとか思わないの?」
「人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られますよ?」
「……僕は、親善使節として姫君と親しくなる義務があるのだけれど。役目を全うさせていただけないだろうか」
「度が過ぎた親しさは癒着を疑われますよ、聖人様。あくまでも、常識的な距離を心掛けた方が良いのでは」

 黒い笑顔と鮮やかな応酬が飛び交う。
 おかしい。カイルもフリードルもシュヴァルツもいないのに、空気が目に見えて険悪だ。

「……──とりあえず、タイムテーブル作っていいですか?」

 誰か一人との時間を選ぶ訳にはいかない。……ならば、全員選んでしまおう!
 現在時刻は昼の十二時過ぎ。そして約束の時間は夕方十七時頃。──せっかくだからのんびり観光がしたいと、今日はかなり時間に余裕を持たせてルーシェに来た。
 なので、一時間ずつ四人との時間に使ってしまうことにしたのだ。
 そして。本人達の強い希望から、自分のターン以外の時間は、残りの三名で別行動を取ることになったらしい。
 なんのこだわりかは知らないが、皆がそれでいいなら私もそれで構わない。細かいルールは皆に任せ、あっという間にタイムテーブルが完成した。

 まず、十二時半〜十三時半までがシルフとの時間。
 そして十三時半〜十四時半まではメイシアとの時間。
 その後十四時半〜十五時半まではミカリアとの時間。
 最後に十五時半〜十六時半まではマクベスタとの時間ということになった。
 絶対に時間通りという訳にはいかないだろうけど、基本的にはこのタイムテーブルでいこうと話し合い、全員納得の上でそれぞれとのおでかけがはじまったのであった──……。
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