だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「ですが私は死にたくありません。親へと惨めに愛を求め続けて結局殺されるような人生は嫌なんです。私は、もう親からの愛も兄からの愛も誰からの愛も要らない……ただ私が幸せになれればそれで十分なんです。自分が無事生き延びて幸せになる為に、私は今まで一人で色々やってきたのです」

 淡々と演説する。これは紛れもない私の意思。今までシルフにしか話して来なかった、私の目的。
 奴隷商の事も、この貧民街大改造計画も、全部私がただやりたくてやってるだけに過ぎない。
 そこに、皆が求めるような優しさや美しさや高尚さは全くない。

「ですのでディオさんの問への答えは──自分の為、なのです。これで分かったでしょう、私はいい人などでは決して無いのです。だって私は極悪非道冷酷無比な血筋の人間……どれだけいい人ぶった所で、結局は偽善者が精一杯ですから」

 悪漢達に囲まれた時や、奴隷商の拠点で暴れた時、私はそれを心底感じてしまった。
 ──この体は、やはり冷酷無比なフォーロイトの血筋なのだと。
 何せ、いざ実戦を前にして私の体は人を傷つける事になんの抵抗も悔恨も覚えなかった。
 躊躇ってはいけないと意識していたとは言え、私の体は……私の意識までもが、他者を傷つける事をまるで当然のように捉え、本当に躊躇なく攻撃出来てしまったのだ。
 まだ人を殺した事は無いのだが、この様子だと人を殺しても変わりないのだろう。
 何も感じず、何も思わず、ただ人を殺すだけの化け物になってしまうのだろう……それこそ、我が父、無情の皇帝エリドル・ヘル・フォーロイトのように。
 そんな人の心が無い私がどれだけ善人ぶろうが、結局は偽善者が精一杯なのだ。

「……ガキにそこまで言わせるとか、どうなってんだよ……お前の家は……っ」

 ディオさんの眉間にどんどん強い皺が作られていく。まぁ、いずれ話す事になる……と言うか、この後話す予定ではあったし、もう私の事話しちゃってもいいか。
 シャンパージュ伯爵邸での時のように、私はシルフに魔法を解くようにお願いする。
 …ケイリオルさんに正体がバレないようにしろって言われてるけど、今後の事を考えるとここで話しておいた方がいいと思うのよ。
 私の髪が銀色に変わった瞬間、ディオさんとラークさんの表情が一気に変わる。声にならない驚愕が、彼等から発せられる。

「な、おま……それ……!?」
「ディオさん達のお察しの通りですよ」

 私を指さしてディオさんが魚のように口をパクパクとさせている。

「改めまして……私は、アミレス・ヘル・フォーロイト。一応この国の王女です」

 そう名乗ると、ディオさん達が凄まじい勢いで頭を下げてしまった。
 ディオさんに至っては、強く額を机に打ち付けていた。

「えっ、ちょ……」
「──今までの数々の無礼、心よりお詫び申し上げます。まさか王女殿下とは露知らず」
「我々の非礼を、どうかお許し願えませんか……王女殿下」
「ま、待ってください別にそんな」

 罵倒されたり嫌われたりぐらいは覚悟していたのに、ディオさん達の反応は予想外の……いや、ある意味予想通りのものだった。
 二人はかなりまともな大人だった。だからこそ、私が王女と分かってすぐにこのような態度になったのだろう。

「怒るつもりなんて全くありませんよ! そもそも正体を隠してたのは私の方ですし、ディオさん達に非はありません!! だからそうやって頭を下げるのをやめてください!」

 机をバンッと叩きながら立ち上がり、私は叫ぶ。

「私相手に敬語を使わないでください。無理に態度を取り繕わないでください。どうか今まで通りに接してください…………何があろうと、私はそれを一切咎めませんので!!」

 一気に捲し立てた影響か、肩を小さく上下させ浅く呼吸を繰り返す。そして落ち着いてからゆっくりと座り直す。
 あまりにも必死な私に、ディオさんは若干引き気味でおずおずと返してきた。
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