だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

130.ある王子の思惑

 バタン、と扉が閉まる。それは近頃仕事漬けで疲れの溜まっているアミレスが就寝の為に退出した音であった。
 アルベルトのひとまずの処遇も決まり、様々な捏造に関しては明日朝一でハイラが手配する事となった。その為、アミレスも少しは安心して眠れるというもの。
 日々仕事に押し潰されそうなアミレスを心配していた者達が早く休むようにと促した結果、アミレスだけ一足先に休む事になったのだ。
 だがしかし、アミレス以外の者達はまだ部屋に残っていた。そこに、残る理由があったのだ。

「──そんなに俺の存在が気になるんだ、実に愛されてんね〜アイツは」

 肝が据わっているのか、カイルは張り詰めた空気の中でヘラヘラと笑っていた。長椅子《ソファ》にはカイルだけが座っており、他の者達はカイルを囲み見下ろす形で半円状に広がり立っている。
 殺意の籠ったいくつもの瞳に睨まれようとも、カイルは全く怯んだ様子を見せない。寧ろ、どんどん楽しげな笑顔になってゆく。

(ま、誰も彼もが俺に殺意向けてくる時点で分かりきってた事だけどさ。アイツ、まさかの鈍感系だったかぁ……いや、それとも──……)
「答えろ、カイル・ディ・ハミル。お前はアミィとどういう関係なんだ? あの手紙は一体何だったんだ?」

 脳内で考察を繰り広げるカイルに向けて、シルフが強く威圧する。精霊界に在る彼の本体は、今や怒りのあまりティーカップに亀裂を入れる程である。
 しかしそのような事をカイルが知るはずも無く。

「関係……仲間かな。運命共同体もアリ。とにかく似た境遇の仲間なんだよ、俺とアミレスは。あの手紙はただお互いの話をしてただけで国際問題に関わるような内容ではないぜ?」

 だから安心してくれよ、とカイルが笑うと、その髪を掠めるようにイリオーデの剣が素早く突かれる。あとほんの少し横にズレていたらカイルの顔が斬られていた……そんな緊迫感でも、カイルはずっと笑っていた。
 こうして脅してもなお全く堪える様子のないカイルに、イリオーデは口の端を歪めてキッと睨む。
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