だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「だから俺達人間が手の届かない範囲まで守ろうなんて傲慢な事を考えりゃ、出来る事はただ一つ。この世界の運命を捻じ曲げる事だけだ。幸いにも俺達にはそれが可能なだけの記憶と知識があり、既にオセロマイトを救ったという実績もある。だから俺達で変えるんだよ、この世界の運命を」

 ニヤリとキメ顔でカイルが笑う。この世界の運命を変える──本当にそんな事が可能なのか、いや……そんな事をして大丈夫なのか?
 もし、何処かで変えた運命の皺寄せが来たらどうなってしまうの、と来るかも分からない未来の可能性を考えては不安になる。それと同時に私の脳裏にはもう一つの疑問が浮かんだ。

「…………話変わりすぎじゃない? 主要キャラの犠牲がどうのって話はどこ行ったのよ」
「さっきの犠牲云々は『どのルートを潰すか』って話だったろ、まさか分かってなかったのか……? 確かに何か違う話してるなとは思ったけどよ、おいおいちゃんと汲み取ってくれよ」
「いや無理でしょ」

 カイルが鼻持ちならない顔して煽ってくる。あの会話の流れでそれは無理だよ。どう考えても誰を見殺しにするか選べみたいな聞き方だったわよ。

「我が友アミレスならば余裕で汲み取ってくれるかと思ったんだが……期待し過ぎだったか」

 およおよ、と嘘泣きをする仕草でカイルはふざけた事を口にした。

「会って一日の相手にあんたは一体何を期待してるのよ……話の腰を折られた気分だわ」
「折ったのはお前の方だけどな」
「うるさい」
「いてっ、暴力反対ー!」

 漫才のツッコミのようにカイルの頭に華麗な一撃をキメる。まるで小学生の喧嘩のようにしばらく騒ぎ、やがて落ち着いた私達は向かい合うように座り、何事も無かったかのように話を再開した。

「で、アミレスさん的にはミカリアとアンヘルならどっちのルートを警戒したい?」
「うーん……アンヘルかな。アンヘルのルートでも私死ぬみたいだし……」
「え? それならミカリアのルートのバットエンドのがやばいだろ。帝国滅びんだぜ?」
「それは多分、大丈夫だと思う。多分」
「え、何で??」

 カイルがきょとんと首を傾げる。そう言えばカイルに言ってなかったわね。

「私、ミカリアと友達になったのよ。オセロマイトの一件で力を貸してもらった事を切っ掛けにね」
「マジで?!」
「最終的には名前で呼べって言われたわよ」
「マジじゃん……」

 一度は信じられないとばかりに大声を発して立ち上がったカイルだったが、納得したのかすぐさまススス……と静かに着席した。
 カイルもかなりアンディザをやり込んだプレイヤーのようで、ミカリアに名前で呼ぶ事を許されるというその意味を分かっているようだ。
 そう、私のバックには国教会の聖人様がいるのよ! 驚いたか!

「まぁ実を言うと俺も一回だけアンヘルと接触したんだけどさ」

 あれ、そんなに気にしてない?

「昔城で開かれたパーティーに珍しくアンヘルが出席してたんだよ、そりゃあ俺は興奮気味に話し掛けたさ。そして無視された。俺よりも立食のスイーツの方が大事だったらしい」
「あぁ……」

 悲しげに明後日の方を見て語るカイル。私はそれを聞いて大きく納得してしまった。だってアンヘル、大の甘党だものね……。
 フォーロイト帝国との国境付近に領地を構え、魔導兵器《アーティファクト》の研究・製造を代々行って来たデリアルド伯爵家。その一族の生き残りにして最後の吸血鬼とまで言われる混血《ハーフ》の吸血鬼、現辺境伯アンヘル・デリアルド。

 彼は甘いものと魔導兵器《アーティファクト》にしか興味をそそられない変わり者なのだ。そして吸血鬼のくせに血の味がそんなに好きじゃないらしい。
 純血の一族に生まれ、両親もまた純血の吸血鬼であったにも関わらず生まれた混血の吸血鬼……っていうのがアンヘルの闇なのよね。結局その理由はゲームでも明らかにならなかったんだけど。
 何かとヒロイン含め主要キャラ達の家庭環境に問題があるゲーム、それがアンディザなのだ。
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