だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「あ〜〜〜〜もうっ! どういう事、どうなってるのよ! 何でロイはいつまで経っても神殿都市に来ないの?! サラもセインカラッドも全然どこにもいないし! ミカリアだって最初からあたしに優しかった筈なのに、どうして全然あたしに優しくしてくれないの?!」

 少女は怒りのままに叫んだ。その意味の分からない叫びに、割れた食器を片付ける司祭が恐怖のあまりビクッと肩を跳ねさせる。

「あたしはヒロインなのよ、ミシェル・ローゼラなのよ? この世界の中心で全てから愛されるヒロインなのよ! それなのに何で……何で全然上手くいかないのよ、ロイは簡単に攻略出来たのに……っ!」

 ぶつぶつと呟きながら、少女──ミシェル・ローゼラは奥歯を噛み締め室内をぐるぐる動き回っていた。
 そこでふと、彼女の視線がある所で止まる。それは誰かが持ってきた新聞であった。その日付を見て、ミシェルは思う。

「…………あ、そっか。そういえばまだゲーム開始前なんだっけ。早くミカリアやサラに会いたくて早く来すぎたんだった。もしかして……これ、ゲームが始まらないとあたしのヒロイン補正みたいなのかからない感じ? そうだ、絶対そうじゃない! だからミカリアも全然優しくなくて他の人達もあたしに冷たいんだ! あれ、じゃあなんで村では皆あたしの事大好きだったんだろ……ま、あたしが可愛いからでしょ!」

 ミシェルは唐突に落ち着きを取り戻し、満足気に寝台《ベッド》に寝転がった。

「ゲーム始まるのっていつだっけ、二年後? 三年後? えーどうしようそれまですっごい暇じゃん……ここの人達はゲーム始まるまであたしに優しくしてくれないみたいだし、一回村に帰ろっかなぁ……あそこならロイもいるし、皆があたしに優しくしてくれるもん」

 少女はゴロゴロと転がりながら無責任な事を口にした。
 自らの意思で本来より数年も早く神殿都市に来たと言うのに……自分に原因があるとは全く考えもせず、ミシェルはこの世界に原因があると考えていた。
 ミシェルは『自分が愛されない可能性』を何故か一度も考えて来なかった。
 人ならして当然の努力も、愛し子としてすべき努力も、人に愛されようという努力さえもしていない彼女が、世界中から愛される訳が無いのに。自身に与えられたヒロインというポジションだけで全てが手に入ると、彼女は信じてやまなかったのだ。
 故に彼女は間違える。己が捻じ曲げた運命が他の捻じ曲げられた運命と混ざり合い、新たな運命を編み出しては彼女の首を絞める事になるなど…………当然、彼女は知らない。

「ウフフッ、アハハハッ! 早くゲーム始まらないかなぁ、あたしが世界を救ってあたしが皆に──世界中に愛されるのなんて。もう本当に最っ高だわ!!」

 どうやらミシェルにも一応、世界を救おうという気持ちはあるらしい。いや、これが彼女の願望に押し潰されなかった数少ないミシェル・ローゼラの残滓と言うべきか。
 そして……世界中から愛されたいと願う彼女は、司祭達を恐怖のどん底へと叩き落とすような高笑いを、暫く響かせていた。
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