だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
(こいつ、もう駄目だ。救いようがねぇ……何でこんな奴の所為で彼女が泣かないといけないんだ。こんな形で彼女の泣き顔を見る事になるなんて……っ)

 フリードルの歪みを垣間見た少年はギリ、と歯ぎしりする。アミレスがこんな男の所為で苦しみ涙してしまった事実が、どうしようもなく少年の腸を煮えくり返させた。

「──ぼくさ、はっきり言ってこの世界とか人間とかどうでもいいんだよね」
(いきなり何なんだ……?)

 プツン、と。少年の中で何かが切れた音がした。何故かとても明るい声音で少年は語り、フリードルの影を踏むのをやめる。
 すると途端にフリードルの体に自由が戻り、フリードルは警戒しながら弾かれたように立ち上がる。数歩後退り、少年より距離を取って、フリードルは目前の不気味な子供の笑顔を見ていた。

「でも彼女だけは別。アミレス・ヘル・フォーロイトだけは特別なんだ。彼女はとっても面白い。一緒にいて退屈しない、とてもとても特別な存在なんだ。だからぼくは彼女が望む未来の為に協力する事にした。彼女の見た未来をぼくも見たい。彼女は今やぼくの存在意義……生きる糧、と言っても過言ではないね」

 少年は笑う。輝かしい未来を夢見る子供達のように。

「だからね、ぼく──……この世界を敵に回す事にしたよ。愛しい彼女の為ならばぼくは何だってしよう。彼女の面白おかしい人生を見届ける為ならば、世界の一つや二つ、破壊しても構わない」

 少年の口が鋭利に開かれる。そこには獰猛な牙があり、満月のようであった彼の金色の瞳は夜闇の如く黒く塗り潰され、その中心には紫水晶《アメジスト》のように妖しく輝く紫色の瞳があった。
 まるで仮面がひび割れるかのように、少年の顔に亀裂が入る。それはさながら、これより孵化せんとする卵のようで……このまま世に解き放たれてはならない存在だと、フリードルも本能で感じ取った。

「ッ、凍てつけ!!」

 少年を足元から凍結する。魔法にも秀でたフリードル渾身の氷魔法で全身を氷漬けにされた少年は身動きを取れない、筈だった。
 氷塊の中で黒い眼球がギョロリと動く。紫色の瞳孔がフリードルを捉えた直後、氷塊は内側から爆ぜたかのように弾け飛んだ。
 弾け飛んだ氷が頬や体を掠め、フリードルは怪我をする。しかしそれすらも気にならない程……今、フリードルの意識は目の前に立つ人ならざる何かに向けられていた。

「ぼくに課せられた制約はさ、人間を殺してはならない。人間界で大規模な力の行使を認めない。とかで精霊のとは違ってて…………実は最初からこんな風に擬態する必要なんて無かったんだよね」

 少年の顔が、壊れた仮面のようにパラパラと崩れ始める。そこから黒い影のようなものが漏れ出ては少年を包み込む。やがて全身を闇に包まれたそれは、徐々に大きく、周囲に無差別に恐怖を振り撒く存在へと逆戻る。
 ずっと、人間と言うガワによって完璧に隠されていたその存在が、擬態を止めて本来の姿へと戻ってしまった。
 現れてはならない人類にとっての災厄そのもの。まさに忌むべき存在──、

「でもオレサマ(・・・・)は偉大なる悪魔だからさ、こうでもしないと人間界を満喫するとか不可能だったんだよなァ」
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