大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
(俺が誰か知らないのか?)
思いあがっているかもしれないが、瞬がそう感じるくらいに冷静な表情だった。
これまで紹介された女性は、たいがい瞬のルックスと沖田自動車工業の御曹司で元レーサーという肩書きに目を輝かせたものだ。
少しでも瞬の印象に残ろうと女らしさを強調してくるし、しゃべる内容も服装もみな似たり寄ったりだ。
華やかな色、キラキラした装飾品。瞬がそういったものを好むと信じているのだろうか。
瞬はどちらかといえば女性が苦手だ。
立っているだけでオーラを放つ近藤彩絵のような女性もまれにいるが、親しくなろうとは思っていない。
女性に愛想よくしているのも会社のため、皆で苦労して作り上げた新車のためだ。
時には個人的な好意と勘違いされてしまうのだが、有名税と割り切っていた。
(だが、彼女は違う気がする)
彩絵とよく似た顔立ちだが、キリっとした表情には甘えがない。
よほど自分に厳しいか、こんなパーティーに興味がないかだろう。
(もしかしたら、両方かもしれないな)
瞬はがぜん、詩織に興味が湧いてきた。
それに、彼女と視線が合った瞬間の胸の痛みが気にかかる。いや痛いというより、強い衝撃を受けた。
彼女の澄んだ瞳を見つめた時、瞬が経験したことのない感情がわき上がったのだ。
(近藤詩織か。覚えておこう)
瞬は初めて会った女性の名を密かに胸に刻んだ。