大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
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近藤病院は、事故やケガで外科手術を必要とする人を受け入れている都内でも有名な病院だ。
手術後の機能回復のために、リハビリテーションにも力を入れている。
入院患者の多くは厳しいリハビリに耐えて、元気に社会復帰をしていくのだ。
詩織はケガで心身ともに傷ついたアスリートを担当しているが、少しでも役に立てばと笑顔で治療にあたっている。
広いリハビリテーション室には様々な器具が置かれていて、高齢者もいれば高校生の姿も見られる。
みな、理学療法士や作業療法士たちとマンツーマンでその日のメニューをこなしていた。
「詩織先生、痛みが和らいだ感じがするよ」
陸上選手の高木麻耶が嬉しそうに言った。
「よかった。毎日頑張っていたものね」
「ケガしてから、九州のおじいちゃんたちに心配かけちゃってるの。早く復帰して安心させてあげたくて」
「優しいおじいちゃんなんだね」
「はい!」
麻耶は高校生ながら、いずれは中距離の国内トップランナーになるのではと期待されている。
足首の靭帯を痛めてしまい、近藤病院で手術を受けてリハビリをしているところだ。
「おじいちゃんの家は阿蘇山の近くで、あの景色を見ているとイヤなことや練習の辛さを忘れちゃうんですよ」
「そう。私もいつか行ってみたいな」
「温泉もあるんですよ~」
祖父の話をする時の麻耶は、あどけない表情をする。
幼い頃から可愛がられていたのだろう。
「あ、美味しいお菓子もいっぱいあります!」
「復帰に向けて、食事にも気をつけなくちゃ」
ケガのストレスからか、麻耶はこっそり甘いお菓子に逃げていた。
たまたまチョコレートのやけ食いを見た詩織が、それとなく麻耶の落ち込みを解消するように心がけていた。
「はーい、詩織先生。これからは甘いものは控えま~す」
ようやくリハビリに前向きになってきた麻耶の姿に、詩織も胸をなでおろす。
「じゃあ、今日はここまで。頑張ったね、麻耶ちゃん」
詩織が声をかけると、麻耶は嬉しそうだ。
完全復帰までにはまだ二か月くらいはかかりそうだが、麻耶の明るい性格なら乗り切れるだろう。
「じゃあ、このメニューでしばらくやってみよう」
「了解です!」