大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした


電子カルテにリハビリの診療記録を入力して、詩織が業務を終えたのは午後六時を過ぎていた。

つい患者さんの経過が気になってしまい、カルテ入力にも時間がかかる。
『効率が悪い』と父から注意されることもあったが、詩織は手を抜くつもりはない。

(少し遅くなっちゃった)

定時より二十分ほど過ぎて、詩織は病院を出た。十月とはいえ、陽が暮れたら肌寒い。
冷え込む日は、薄手のセーターが恋しくなる時期だ。

近藤病院のすぐ近くに両親と姉が住む屋敷があるのだが、詩織は大学に合格した時から家を出ている。
就職してからも実家には帰らず、ずっとマンションでひとり暮らしだ。
家族と仲が悪いわけではないのだが、大学の合格が決まった時に詩織はひとり暮らしをすると宣言していた。

詩織は幼い頃から、いつも姉と行動を共にしてきた。
それこそ物心ついた頃からいつも一緒だった。
ひとつ違いだったし、母も姉と一緒に連れ回った方が楽だったのだろう。
ピアノのレッスンや英会話教室、もちろんテニススクールにも姉がいるからと通わされた。
詩織の意志でやり始めたのではないのに、どこにいっても姉と比べられてきた。


< 15 / 118 >

この作品をシェア

pagetop