大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
コーヒーを運ぶ口実があれば、少しは情報が入るだろう。
「ありがとう。瞬も目が覚めたときに拓斗さんがいてくれたら嬉しいと思うわ」
そう言うと、肩を落としながら手術室のある階へ戻っていった。
事故が起こったのは夕方だから、瞬が手術室に入ってからかなり時間が経っている。
駆けつけた瞬の両親も辛い時間を過ごしていることだろう。
どうやら詩織は拓斗の連れと思われたようだ。
コーヒーショップに頼んでポット入りのコーヒーを購入し、手術患者の家族のための控室に運ぶことにする。
少しでも瞬のそばに近付けそうだから、詩織はホッとした。
「ありがとう、拓斗さん」
「いや、君たちが周りに内緒にしているって聞いてたから……でも、こんなことになるなら早く親と会っておけばよかったな」
「ええ、とても残念です。側にいたいけど、側にいられないなんて……」
コーヒーを運んだ控室は想像したより広い部屋で、応接セットや簡易ベッドが置かれていた。
詩織は瞬の父と義母にそっと紙コップに入れたコーヒーを渡した。