大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
「美味しい……わざわざコーヒーショップで買ってきてくれたのね。ありがとう、拓斗さん」
「いえ、少しでも気持ちが落ち着いたらと思って」
拓斗は遠慮がちに返事をしている。
「拓斗さんのお友だちも、ありがとう」
少し顔色がよくなった義母は、詩織にも丁寧に声をかけてくれた。
少し離れた席に無言で座っていた瞬の父も話を聞いていたのか、頷いている。
詩織はただ黙って、瞬の両親に深く頭を下げた。
それからの数時間は、重苦しい沈黙が室内を支配していた。
時おり沖田自工の秘書らしい人物や病院関係者、警察官が出入りするが皆険しい表情だ。
窓の外が明るくなり始めた頃、ひとりの医師がやってきた。
「無事に手術が終わりました。成功です」
瞬の父たちは飛び出すように控室を出ていくが、詩織と拓斗はまだ動けない。
家族だけに許された時間だから、瞬の側に行けないのだ。
「詩織ちゃん、なんて言っていいか……」
「いいの。瞬さんが無事だったのがわかって嬉しいわ。だけど、瞬さんが元気になったら拓斗さんからもうんとイヤミを言ってやってね。ひと晩中心配していたんだもの」
「瞬が内緒にしてるから、恋人だって名乗れないんだもんな。僕に任しとけ。アイツの弱みを握ってるっていい気分だな」
わざと明るい調子で拓斗は話している。
彼だって物すごく心配していたはずなのに、詩織の立場を考えてくれているのだ。
その心遣いが、詩織は嬉しかった。