大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
長い廊下の奥に、瞬がいる部屋があるのだろう。
詩織はICUだろうかと気になりながら、黙って彩絵たちを見ていた。
離れているから会話までは聞こえてこないが、詩織の胸はどくどくとイヤな音をたてている。
「あの人、君のお姉さんだよね」
小さな声で尋ねてくる拓斗に、詩織は無言でうなずく。
詩織が彩絵と義母の様子を見て緊張したのを感じたのか、拓斗はだまって背をさすってくれた。
『大丈夫だ』というような、優しい手つきだった。
***
「彩絵さんですか?」
「は、はい。瞬の容態は?」
彩絵は早朝に突然瞬の義母から連絡をもらい、ここにに呼ばれた。
昨夜の事故の事などまったく知らなかったのだ。
「手術は無事終わったの。息子の麻酔が冷めた時に、あなたにいて欲しくて」
「わ、私に?」
理由がわからないのだが、義母の様子から話を合わせなくてはと瞬時に悟った。
「瞬がスーツのポケットに指輪を持っていたのよ。S・Kって、あなたのイニシアルでしょ」
「は、はい!」
イニシアル入りの指輪と聞いて、彩絵はハッとした。
瞬が自分になにかをプレゼントしてくれたことなど一度もなかったのだ。
(私に? まさか……?)
「あなたにプロポーズでもするつもりだったのかしら、車内にはバラの花束もあって……」
そこまでひと息で言い切ると、義母は泣き出してしまった。