大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
「しっかりしてください、お義母さん」
「ありがとう、彩絵さん……こんなことになってしまって……」
彩絵は頭の中で必死で考えを巡らせていた。
瞬には何度も好きだと伝えていたが、はぐらかされてばかりだった。
正式に付き合っている恋人がいるとは聞いていない。
それなのに、彼は指輪と花束を用意していた。
(秘密の恋人がいたんだわ)
しかも、彩絵と同じイニシアルだ。完全に義母は誤解している。
(これって、チャンス?)
向こうが勝手に誤解したのだ。
このまま様子を見たらいいのではと悪魔の囁きが聞こえてくる。
もし瞬の意識が戻って、人違いだと言われてもいいじゃないか。
最初に間違えたのは、沖田家の方なんだから。
その時、彩絵は視線を感じた。彩絵がゆっくりと振り向くと、よく知った顔がそこにあった。
「詩織……」
どうして自分より先に病院に詩織がいるのか、信じられなかった。
驚きながらも彩絵は、疲れ果てている詩織を見て『ああ~』と思わず声を漏らしそうになった。
やつれた顔をしているから、きっと昨夜から病院にいる詩織。
指輪のイニシャルS・Kは、詩織も同じだ。
(譲れない……)
ふらふらと彩絵は詩織に近付いた。
じっと詩織の顔を見てから、か細い声でひと言だけ口にする。
「ゴメンね」
それだけ言うと、彩絵は急いで詩織から離れた。
自分の犯した罪の意識に苛まれながらも、一度ついてしまった噓は彩絵を大胆にしていた。