大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした


「悔しいけど、お似合いね~」
「沖田瞬って、決まった恋人を作らないことで有名だったけど」
「いよいよ結婚かしら」

彩絵と瞬は周りの騒ぎを気にもとめないのか、話に夢中のようだ。

「恋多き近藤彩絵が沖田瞬を落としたのかしら」
「あら、沖田瞬の恋人だからイメージキャラクターになったんじゃない?」

あれこれと詩織が知らなかった情報が耳に入ってくる。

(明日からは次のトーナメントに向けての練習だし、困ったな)

ふたりだけで盛り上がっているから、声をかけにくい。
恋人同士なら邪魔をしたくなかったが、これではマネージャーと約束している時間に間に合わないかもしれない。
ふたりには申し訳ないが、詩織は彩絵のそばへ近寄った。

「彩絵、もう行かなくちゃ」
「ヤダ、もう少し待ってよ」

ぷうっと彩絵が頬を膨らませたので、瞬が詩織の方を見た。
文句を言われるかなと、詩織は身構える。

「君は?」

詩織と瞬の視線がぶつかった瞬間、パチリと火花が散ったような音が聞こえた。

(なに、これ……)

詩織だけかと思ったが、彼もなにか感じたらしく眉をひそめる。
黙ったまま、ふたりは見つめ合う。
それは周りから見ればほんの一瞬のことだったが、詩織にはとてつもなく長い時間に思われた。


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