離婚前提から 始まる恋
夜8時。
残業で遅くはなったけれど、私と杏は食事に出た。
場所は駅から少し離れたところにあるイタリアンの店。
落ち着いた雰囲気の小さなレストランはパスタが絶品で、いつも混んでいてなかなか予約が取れない。
けれど、ここは実家の父の行きつけの店だから私も顔が効く。
おかげで今夜も、奥の個室へと案内してもらった。

「あれ、花音飲まないの?」
「うん、今日はやめておく」

いつもならスパークリングワインをいただくことが多いけれど、今日はノンアルにした。
さすがにこの間酔っぱらって帰り勇人に叱られたばかりだから、しばらくお酒はやめておこうと思う。

「もしかして、旦那さんに叱られた?」
「ああ、うん、まあね」

あの晩の勇人はかなり怒っていた。
今まで見たことがないような怖い顔をしていたし、強引に体を求められた。
でもそれは無理やりってことではなく、お互い納得の上。
次の日の朝にはすっかり機嫌も直っていたし、それ以降は普通に接してくれている。

「拓馬君が心配していたのよ。大丈夫だったの?」
「うん、平気よ」

普段喧嘩なんてしないからしばらく気まずさはあったけれど、自然と元に戻った。
それに、仕事が忙しい勇人には私のことにかまっている余裕なんてないのだと思う。
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