大嫌いと言われた元カレに再会したら、息子ごと溺愛が待っていました
「わかった。秀也のこと見ててもらえる?」
「当たり前だろ。急がなくていいから」

試着室のドアが閉められる。私は着ていた服を脱いで、ワンピースを手に取った。自分が着ていたものと肌触りも生地の厚さも違う。触っただけで高価な物だとわかる。

(こういうのをぽんと買える人になったのよね)

もともと、父の会社を継ぐことになりそうだとは聞いていた。彼が幸せになることこそ自分の望みであったはずだ。けれど、遠いなと思う。もしもあのとき妊娠を打ち明けていたら、今頃どうなっていたのかと考え、首を横に振る。

(私を守るために、大学進学を諦めて、家族と縁を切るなんて……どのみち上手くいかなかった)

彼が努力家で精進を怠らない人だからこそ、二十八歳という若さでワンダープレイの専務にまで上り詰めたのだろう。けれど、生まれ持った環境ももちろんあるはずだ。彼は食うに困るほどの暮らしを経験したことがない。

あのとき私を選んでいたら、そうなる可能性だってあった。それを想像すると、自分の行動は間違っていなかったのだと思える。

過去は変えられなくとも、未来は自分たちで選べるのだから。もし彼が自分を選んでくれるなら、それに応えたい。

私はワンピースに着替えて、パンプスにそっと足を通す。パンプスは私の足にぴたりとフィットしたように履きやすくいくら歩いても疲れなさそうだ。

「良く似合ってる。バッグはこれかな。大きめのを選んだけど、全部入りそうか?」
「ありがとう。たぶん入ると思う」

荷物を入れ替えるならこちらへ、とスタッフに秀也が待つ部屋へ案内された。

「お母さん、綺麗!」
「こんな服着たことないもんね」

今まではおしゃれをする必要がなかったから自分に無頓着でいたけれど、秀也の笑顔を見ていると、たまにはいいかと思える。
< 39 / 57 >

この作品をシェア

pagetop