大嫌いと言われた元カレに再会したら、息子ごと溺愛が待っていました
「どうして寧子が俺から逃げたかわかるか?」
「知るわけないわ」

犬飼さんは疲れ切ったように息を吐き、涙に濡れた目を床に落とした。これだけ言ってもなおその目がこちらに向けられることはない。
拓也はそんなお母さんにさらに苛立ったような鋭い視線を向ける。

「母さんは俺たちの交際に反対してただろう? これ以上俺が母さんを憎まなくて済むように、家族の縁を切らせないように、寧子は自ら悪役になってくれたんだ。事実、俺はなにも知らずに寧子を憎み続けた……十年も。それを母さんのせいにするつもりはない。だけど、これ以上、俺の大切な人を悪く言わないでくれ」
「私は、あなたのために……」
「俺はまだ新米の父親だけど、これだけはわかる。子どもの進む道を応援こそすれ、邪魔はしたくない」
「邪魔をしたつもりなんてないわ」
「寧子が家に来たとき、嫌味は言えど、まともに挨拶すらしなかっただろう。ま、邪魔されればされるだけ盛りあがったけどな」

拓也は口元を緩めて私を見た。
犬飼さんははっと我に返ったように視線を動かした。初めて彼女の目に私が映る。自分の行動がただの憂さ晴らしでしかなかったことに気づき、恥じているようだ。

「そう、だったわね。ごめんなさい」
「しっかりしてくれよ。孫の面倒見なきゃならないんだから」

私が別室で待っていた秀也を呼ぶと、お行儀良く犬飼さんの前にちょこんと座る。
< 50 / 57 >

この作品をシェア

pagetop