エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 吉峰の言葉に、夫人が声を上げて笑う。

「あら、ずいぶんおいぼれたキューピッドですね」

「ひどいなぁ」

 夫婦ふたりで笑い合っている。

「俺たちもおふたりのような夫婦になれるように努力します」

 清貴の言葉に吉峰が背中をドンッと叩いた。

「誰の真似もしなくていい。自分たちの夫婦の形を作っていきなさい」

「はい」

 清貴と菜摘がうなずくと、吉峰夫妻はふたりを見送ってくれた。

 それから新幹線に乗って四時間ほどで東京に降り立った。移動の間も清貴はずっと菜摘の手をにぎっていた。菜摘はその繋がれている手を見るたびに彼を実感でき喜びで胸がくすぐったくなった。

 しかし浮かれている場合ではない。今回の菜摘の失踪でたくさんの人に迷惑をかけたのだ。特に義母である祥子は最後に会ったのが自分だったからと、ずっと悩んでいたそうだ。

 広島から謝罪の電話を入れた際、電話口では号泣していた。どれほど心配をかけてしまったのかと思うと、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 まもなく加美家に到着するタクシーの中、菜摘はどのように詫びるべきなのか考える。

「緊張しているのか?」

「うん、私本当に自分のことしか考えていなかったなって思って」

「いや、違うだろ。菜摘はつねに俺のことを考えていただけ。俺のためになるようにしてくれただけだろ。だから責めを負うのは菜摘じゃない。俺だ」

「清貴……ありがとう」

 ぎゅっと握られた手に勇気をもらう。

「俺たちはふたりなんだ。誠心誠意頭を下げよう」

「うん」

 となりに清貴がいる。ひとりでない、それだけで菜摘は何事も乗り越えられるような気がした。

 加美家に到着すると、清貴がすぐに中に入ろうとした。しかし菜摘やはり緊張が解けずに深呼吸をするべく足を止める。

 しかしそうこうしていると、向こうから扉が開いた。

「菜摘ちゃん!」

 飛び出してきたのは祥子だ。その勢いのまま彼女は菜摘に飛びついた。

「お義母さん。あの、私」

 いきなり抱きしめられて驚いた。すぐに謝罪しなくてはいけないのに言葉がうまく出てこない。

「いいの、何も言わないで。無事でよかった、本当に」

 祥子は抱きしめていた腕を緩めて、一歩後ろに下がると、頭からつま先まで菜摘を見てうんうんと涙目でうなずいた。

「ご心配……おかけしました」

「いいのよ、いいの。戻ってきてくれてうれしいわ」
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