エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 菜摘の眉間に深い皺が刻まれる。これまでも何度も会社のお金に手を付けたことはあった。

 だからこそ父から譲り受けたものだけはしっかり守ろうと厳重に管理していたのにこういうことになってしまった。

 和利の病的ともいえる金への執念は、菜摘や賢哉の想像を超えてきている。

 もし清貴自身や彼の実家に対して、和利が何かしたら……それを想像して、菜摘は恐怖から身震いした。

(絶対に、近づけちゃいけない。何があっても)

「すまない。あんな親父で。俺情けないし、悔しい」

 賢哉は目を赤くしながら怒り交じりの声を出す。

「賢哉くんは悪く無いよ。でも……ひとつお願いを聞いてくれる?」

「あぁ、俺にできることならなんでもやるよ」

 賢哉の快諾に菜摘は自分の考えを伝えた。

 それを聞いた彼が目を見開き頭を左右に振った。

「それは……ダメだ。賛成できない」

「でも、この方法しかないの。お願い、賢哉くん」

 目に涙をためた菜摘の必死の願いに、最初はかたくなに拒否していた賢哉も最後はしぶしぶ頷いた。

 菜摘は賢哉の協力が得られるとわかり、滲んていた涙をぬぐった。

(泣いている場合じゃない、しっかりしなきゃ)

 気持ちを強く持ち、自分を奮い立たせた。自らの大切なものを守るために。



 三週間ほど経ったある日。

 菜摘は大学近くのカフェで清貴と向かい合っていた。

「菜摘、元気だったのか? 最近連絡がほとんどなかったけど」

「えぇ、少し色々と思うところがあってね」

 はっきりとものを言わない菜摘。それどころか視線さえも合わそうとはしない。そんな彼女の様子に会う前に感じていた違和感が確信に変わる。

「何があったんだ、俺に話してくれ」

 彼女の中で何かが起きていると察した清貴は、一緒に解決するつもりで説明を求めた。しかし菜摘はきつく唇を結んだままだ。

 そのとき入口の扉が開いてひとりの男性が現れた。菜摘が視線をそちらに向けて、表情を緩めて手を振った。

 清貴も菜摘の視線を追ってその人物を見た。その瞬間彼の顔がこわばる。

「悪い、菜摘。遅れた」

「ううん、平気」

 やってきたのは賢哉だ。彼は当たり前のように菜摘の横にある椅子に座る。

「菜摘、彼は?」

「話には何度も出てきてるよね、いとこの賢哉くん」

 菜摘はしらじらしく賢哉を紹介する。
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