エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
「それは知ってる。以前ちらっと見たことがあるから……そうじゃなくて、なぜ彼が今日この場にいるのかってことだよ」

 いつもは冷静な彼だが、さきほどの菜摘の態度と合わさって今日ばかりはいらいらした様子が伝わって来た。

「話をするよりも実際に見てもらった方が早いと思って」

「何のことだ?」

 清貴の視線が険しくなる。菜摘はそこから目を逸らせて彼の顔を見ないまま告げた。

「清貴と別れたいの」

 はっきりと告げた。

 その瞬間清貴が息をのみ、次いで怒りをぶつけるかのようにテーブルの上においてあったペーパーナプキンをぎゅっと握りつぶした。

「どういうことだ? 理由を言って」

 努めて冷静にいようとしているのが伝わってくる。菜摘は息をのみ考えていたセリフを口にする。

「私、実はずっと賢哉くんに片思いしていたの。それを彼が受け入れてくれたの」

「何を……今さら言ってるんだ。彼はただの従兄弟で兄貴みたいなものだって言ってただろう」

 以前清貴は親戚とはいえど、菜摘が年頃の男性と一緒に住んでいることに疑問を持っていた。そのときに菜摘は賢哉を兄のようなものだと言ったのは事実だ。

「だってそう言わなきゃ、清貴とはつき合えなかったでしょ。私大学に入ったら絶対彼氏が欲しかったんだもの。でも賢哉くんは相手にしてくれなかったし」

 賢哉の方へ視線向けると、彼は気まずそうに目を泳がせた。いつもならそんな賢哉の様子に気が付く清貴だろうが、今は菜摘に対して沸々と湧いてきた怒りに平常心を失っている。

「それは俺がお飾りの彼氏だったってことか?」

 清貴の聞いたこともないほどの低い声に、菜摘は一瞬ひるみそうになる。しかしなんとしても清貴と別れるつもりの菜摘は、頷いた後こう告げた。

「ごめんね。だって、清貴の彼女って言う肩書が欲しかったんだもの。みんなものすごくうらやましがってくれるし」

 菜摘の言葉に清貴がきつく目をつむる。眉間に刻まれた皺が深く彼の苦悩を表している。

 しかし菜摘は続けた。

「清貴の彼女もそろそろあきちゃっし、留学も本当はしたくないし。それで思い切って賢哉くんに告白したらOKがもらえたの」
「だから、俺は用なしになったってことか?」

 怒りのこもった声に、一瞬ひるみそうになる。

「そんな風に言わないで。清貴には感謝してるのに。恋愛ごっこにつきあってくれて」

「……っう」
< 15 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop