エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
「もちろん。忘れるわけないだろう」

 当たり前のように言う清貴だったが、菜摘にとってそれがどれだけうれしいことか彼はわかっているのだろうか。

 胸がぎゅっとなって苦しい。いつも心の内にとどめている彼への恋心があふれ出しそうになるのをじっと我慢する。

「清貴、ありがとう」

 泣きそうなるのをじっと耐えたせいで、笑顔だが目が少し潤んでいた。

「本当はちゃんと祝ってやりたかったんだけど、出張が重なってケーキだけになったすまない」

「ううん、本当にうれしいの!」

 彼が覚えていてくれたことが、何よりもうれしいのだ。盛大なパーティじゃなくてもこうやって傍にいてくれることが菜摘にとって大切なことだ。

「びっくりさせようと思ったんだが、大成功だな」

 ふたりで持っていたケーキの箱を、清貴がひとりで持つ。菜摘は両手が自由になると同時に彼に飛びついた。

「本当に、ありがとう」

「え、あ、いや……おっと」

 今度は動揺した彼が、ケーキの箱を落としそうになる。ふたりして慌てて手を添え見つめ合った。

 そしてどちらからともなく噴き出して、声を上げて笑う。

「このままじゃ、いつか落としそうだから、さっさと食べよう」

 清貴の提案にうなずくと、清貴はカトラリーと共に冷蔵庫から冷やしていたシャンパンも取り出した。

「ぎりぎり日付が変わる前だな」

 時刻は二十三時を回っていた。遅い時間のふたりだけのバースデーパーティが始まった。

 ふと気づくとリビングのチェストの大きな花瓶には大量のバラの花束が生けられていた。

「もしかして、あれも?」

 美しいバラに釘付けになっていた視線を彼に向ける。すると清貴ははにかんだような笑顔を見せた。

「あぁ、今日は飲み会だって言っていたからとりあえずケーキと花束だけ。それに俺もちゃんと仕事が片付くのか微妙だったからな。また今度ちゃんと祝おう」

「仕事すごく忙しそうだったのに、ありがとう」

 以前の菜摘なら申し訳なさから「ごめんなさい」と言ってしまうところだった。しかし清貴は謝罪よりも「ありがとう」の言葉を喜ぶ。だからこそ日頃からできるだけ感謝の言葉を選んできた。

 そして今日はいつも以上に心をこめて謝意を伝えた。

「ほら、座って」
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