エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 怒りにまかせて賢哉の胸倉をつかみ、にらみつける。

「やめてください。いったい何のことを言ってるんですか?」

 いきなり襲われた賢哉は、慌てた様子で抵抗をする。

「何って、お前が俺の菜摘にまた手を出したんだんだろ! 二度目だぞ」

「バカなこと言わないでくれ! 俺は一度だって手を出していないですからっ!」

「な、なんだと!」

 ひるんだ瞬間、睨んだふたりの間に冷静な声が響く。

「ふたりとも公衆の面前です。少し落ち着いて」

 声をかけたのは賢哉と一緒にいた女性だ。意識がそっちにむいて賢哉の胸倉をつかんでいた手が緩んだ。

 すぐに賢哉は清貴と距離をとり、そしてその女性の前に立ちはだかった。

「いきなり何をするんですか? 菜摘はマンションにいるんですか?」

「お前には関係ない、それよりその女は誰なんだ」

 職場で思考を整理して、少し落ち着いたはずだった。だが賢哉の顔を見た途端冷静さを失ってしまった。

「妻ですよ」

「宮城桃子です」

 女性は賢哉の少し後ろで、名を名乗り頭を下げた。

「妻だと……じゃあ菜摘は?」

 驚いた清貴の中で考えがまとまらない。桃子と言う女性が賢哉の妻ならば、菜摘はいったいどうなってしまうのだろうか。

「じゃあなんで、菜摘はお前と産婦人科なんかに行ったんだ?」

「俺と菜摘が……ふたりで?」

 いぶかしむ賢哉に清貴はスマートフォンに送られてきた例の画像を見せる。

「これ、ふたりが映っているだろう」

 賢哉と一緒に桃子が覗き込む。

「これ、わたしも一緒でしたよ。昨日、彼は私の妊婦検診についてきたんです。ちょうど菜摘ちゃんも同じくらいの時間に診察が終わったから一緒に外に出ただけで、そのあと彼女ご実家に向かうって言ってましたよ」

 たしかに昨日夕食後、母の手作りマドレーヌを一緒に食べた。菜摘が実家に行ったのは嘘じゃない。

「じゃあ、菜摘はなんで病院なんかに行ったんだ?」

 詰め寄ってきた清貴に、賢哉は怪訝な顔をする。

「菜摘から聞いていないんですか?」

「あぁ」

 賢哉はがっかりした様子で首を左右に振った。

「菜摘が言っていないなら、俺たちの口からは言えないです。ただこのままじゃ菜摘があまりにも不憫だ」

「ケンちゃん……せめて七年前のあの事だけは話をしたら? 義父さんが原因なんだから」

 それまで黙って成り行きを見ていた桃子が助言する。

「あぁ、そうだな」
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