エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
(菜摘、菜摘……!)

 車に乗り込み急いでエンジンをかける。この時間も菜摘はひとりで泣いていると思うと胸がかきむしられるように痛かった。

 謝ってすむことじゃない。ずっと自分は何も知らずに彼女だけが悪いと決めつけていた。

 七年前だって自分がもっと大人で彼女を信じていたら、泣かせずに解決する方法をいくらでも考えられたはずだ。

(いや、過去ことも大事だが、今の菜摘も心配だ)

 賢哉夫婦の口ぶりから、昨日菜摘はクリニックを受診してその結果が思わしくなかったようだ。それを相談したくて昨日様子がおかしかったのだ。やっと理由が分かったけれど、状況は最悪だ。

 タイミング悪く送られてきた画像で、頭に血が上り、彼女を最低な言葉と態度で気づ付けてしまった。

 いやそれもいいわけでしかない。彼女を信じることが怖かった。また自分が傷つくのが怖かった。全部自分の弱さのせいで、菜摘をあんなに傷つけてしまった。

 最後に見た絶望にまみえた彼女の顔が記憶に強く残っている。

 あんな顔させたかったわけじゃない。これからはゆっくり夫婦としてきずなを深めるつもりだったのに。

(全部、俺がダメにした。俺のせいだ)

 いったい何度彼女を泣かせ、絶望させたら気が済むんだ。そんな自分が今更彼女の前にでてどうするつもりなのか。

 先のことを考える余裕なんてこれっぽっちもなかった。しかし一刻も早く菜摘に会いたかった。会わなくてはいけなかった。
 清貴は必死になって走り、自宅マンションへと戻った。

 鍵をあけて中に入ると菜摘の靴がないことに気が付いた。どこかにでかけたのかと、すぐにスマートフォンで連絡を入れるが応答がない。しかし彼はかけ続けた。彼女が電話に出るまでやめるつもりはなかった。

 けれどダイニングのテーブルの上にある一枚の紙を見て愕然とする。離婚届だ。ご丁寧に菜摘の欄はすでに記入してあった。
 清貴の手からスマートフォンが滑り落ちる。記名済みの離婚届の威力は今の清貴にはすさまじかった。

「なぜだ、菜摘」

 彼女を傷つけた自覚はある。しかしなんの話し合いもせずに彼女が離婚届を書くとは考えづらい。それとも聞く耳をもたなかった清貴にとうとう愛想をつかしたのか。

 どちらにしろ菜摘に離婚の意志があることには変わらない。
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