23時のシンデレラ〜ベッドの上で初めての魔法をかけられて〜
赤坂にある老舗料亭兼旅館のお座敷で行われていた、打ち合わせと言う名の接待もようやく終盤に差し掛かっていた。

手元の時計は、9時半。美弥もそろそろ家に帰って居るはずだ。

「いやぁ、安堂副社長には、関心するばかりですな、ここ最近のご活躍には目を見張るばかりです。経営手腕は、社長譲りですな」

酔いが回ってきた、星川社長は、恰幅の良い身体を胡座をかいたまま、グイと前に突き出すと、俺のお猪口に日本酒を注ごうとする。

「すみません。急用があり、宿泊せずに、車で帰宅しますので」

「あぁ、そうでしたな」

俺は、星川社長から徳利を受け取ると、星川社長のお猪口へと、酒を流し入れた。

「ところで……娘との婚約の件はどうお考えですか?安堂社長は、来年あたりでも挙式してはと仰っていましたが」

思わず舌打ちしそうになった。勝手に婚約者を決めた挙句に、挙式なんて、あの親父の身勝手さには嫌気がさす。

「私は、副社長なら、娘の相手には申し分ないと思っていますよ」

今夜はアウトレット建設の件で、星川社長とサシ飲みだ。婚約の事を聞かれるとは思っていたが、何と言って断るか。今までも散々、理由をつけてかわしていたが、手元に美弥がいる今とは状況が違う。

俺は正座をしたまま、両の拳を握り膝に起き、星川社長を真っ直ぐに見つめた。

「父からは、星川社長にどのようにお話しされているか分かりませんが、僕には、僕の決めた婚約者がいます」 

星川社長の表情が、驚きに変わる。

「長く探していた女性と先日、偶然出会い、現在婚約者として同棲しています。僕は、彼女以外と結婚することは考えられません。ですので、お嬢様と結婚する事はできません。本当に、申し訳ございません」

深く頭を下げた俺を、黙ったまま星川社長が、暫く眺めていたが、静かに口を開いた。

「若い頃の、自分を見ているようですよ」

「え?」

思わず顔を上げた俺を見て、星川社長が微笑んだ。
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