23時のシンデレラ〜ベッドの上で初めての魔法をかけられて〜
「あの子の名前なんて聞きたくないっ」

ふわりと実花子の甘い髪の匂いと共に、俺の唇に実花子の唇が重ねられる。

「っ……おいっ!」

俺は実花子の肩を押し返した。実花子は俯いたまま、小さく肩を震わせて居る。そしてその細い両腕は、俺の背中に回される。

「……颯行かないで」

「実花子?」

実花子とは一年付き合ったが、こんな風に俺に縋って、肩を震わせて涙を堪える姿は初めて見たかもしれない。

「どした?仕事で何かあった?お前らしくないな」

「私……らしいって何?」 

思わず、実花子を少しだけ押し返して、顔を覗き込めば、綺麗な奥二重からは、涙が溢れていた。

「颯が忘れられないの……今夜だけでいいから。一緒に居て、おねがいっ……ひっく」

「実花子……」

俺は、泣き出した実花子をそっと抱きしめた。付き合っていた時も別れた時も、実花子は、俺に涙を見せた事がなかった。

「……ごめんな」

「嫌……今日だけだから……抱いて……」

「……そんな事言うなよ」

「颯が忘れられない……」

俺は、実花子の長い髪を撫でなでると、実花子の涙を指先で掬った。

「ど……して、あの子なの?颯のあの子を見る目が……今までの女の子と違うこと位、分かってた……でも、どうして私じゃダメなの?」
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