23時のシンデレラ〜ベッドの上で初めての魔法をかけられて〜
「美弥っ!」

一瞬、理解が追いつかない。目の前に居るのは、間違いなく颯なのに。

「は……やて……」

コロンコロンと転がっていく涙は、これ以上、落っこちる前に、颯に抱きしめられて、颯のワイシャツに染み込んでいく。

よく知っている颯の甘い匂いに、堪らなく安心する。

「北沢っ!お前、無理やり美弥に何した!」

殴りかかりそうな勢いの颯に思わず、声が出た。 

「待っ……」

「見てわかりません?抱こうとしました」

「ふざけんなっ!」

颯は、私を玄関の後ろにさっと下げると、千歳の喉元を掴んで、右拳を振り上げた。その拳は、千歳の左頬を捉え、勢いよく、殴り飛ばされた千歳は、床に手をついた。

「颯っ!」

「美弥は黙ってろ!」  

千歳は、クイっと唇の端から流れでた血液を、拭うと、視線を颯に真っ直ぐに、向けた。

「……僕、颯先輩に水泳の勝負、結局負けたんですよね……」

「は?何言ってんの?」

「僕、数えてたんですよね、トータルで颯先輩に何回勝ったか。颯先輩は、僕に負けたと思ってたかもしれないですけど、一勝だけ、颯先輩のが多かったんです」

千歳は、長い足を投げ出したまま、ネクタイに指を引っ掛けて緩める。そして、視線だけ颯に向けた。

「だけど……美弥の事は、幼なじみの僕の方が、有利だと思ってたし、颯先輩が、仮に美弥に本気だとしても、余裕で勝てると思ってました」

「何が言いたいんだよ」

颯は、床から起きあがろうとしない千歳を、ただ、見下ろしている。
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