23時のシンデレラ〜ベッドの上で初めての魔法をかけられて〜
「……美弥は、僕の方が、大事にできると思い違いしてました」

「は?なんだよそれ」

「美弥の事、抱けない位、大事なんですね」

颯の切長の瞳が、大きく見開かれるのが分かった。

「……悪いかよ」

「いえ、僕の負けだなって」

それだけ言うと、千歳は、颯から視線をそらして、静かに床を見つめた。

「……美弥、帰るぞ」

「颯……」

颯は、私の掌をぎゅっと握り締めると、千歳の家の扉を振り返る事なく閉めた。

そのまま、エレベーターからエントランスに降りると、見慣れた颯の白のアウディが停まっていた。

余程急いできてくれたのだろう。颯の車は、乱雑にマンション横に、車体が、歪んだまま停車されていた。

「乗って。美弥に付き合って欲しいところが、あるから」

「……うん」 

私は、助手席に乗り込むと、シートベルトを閉める。カチャリと金属の無機質な音が、車内に静かに響いた。


ーーーー実花子さんは?

どうして、千歳くんの家まで慌てて迎えにきてくれたの? 

千歳くんの言ってた、抱けない位大事ってどういうことなの?

婚約者の人は?忘れられない人って?

聞きたいことは、沢山あるのに、弱虫の私は、ハンドルを握る、颯の横顔をみただけで、ほっとして、涙が出そうになるのを、必死に堪えるので精一杯だった。
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