23時のシンデレラ〜ベッドの上で初めての魔法をかけられて〜
ーーーー(あれ……此処)

颯が、私を連れてきたのは、私が、以前両親と一緒に住んでいた、家の側にある海岸だった。

夜の海に来たのは、初めてかも知れない。そもそも、海に来る事自体、あの日以来だ。

此処で、ある男の子に会って、ハンカチを忘れて帰ってしまってから、私は、親戚の家に、引っ越した為、此処へは、一度も来たことがなかった。   

夜の海は、藍の空に無数の星が、銀色に瞬いて、淡い黄色の月明かりが、押して引いていく波を、静かに見守っている。

颯は、車を降りてから、一言も話さずに、海辺をゆっくり歩いていく。私が着いて行きやすい速さで。私は、ほんの少しだけ、距離を取りながら、背の高い颯の後ろを黙ってついて行く。

「この辺かな」

颯は、いくつか海に向かって、影の様に長く伸びている防波堤のうちの、一本の、先まで歩くと、足を海に投げ出して座った。

「座れよ」

颯に、促されて、私も隣にちょこんと座った。

夜風が、体にさらりと、透けていくように通り過ぎる度、颯の甘い匂いが鼻を掠める。

「風邪ひくから……」

颯が、スーツのジャケットを脱ぐと私の肩にそっと被せた。
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