23時のシンデレラ〜ベッドの上で初めての魔法をかけられて〜
「颯が……風邪引いちゃうから」 

「じゃあ、こうしよっか」 

私が、颯から掛けられたジャケットに手をかけた途端、颯にジャケットごと、抱きしめれる。

久しぶりに触れられた、颯の熱が、あったかくて、私は、颯の背中に手を伸ばすと、颯のワイシャツをぎゅっと握った。 

「なぁ、思い出してくんない?」

「え?」

見上げた颯は、切なそうな顔で、私の両頬を掌で包んだ。

「美弥」 

(ーーーー思い出す?) 


ーーーー何だろう。もう少しで、何か記憶が繋がる気がするのに、それが、もどかしいほどに、靄がかかって分からない。分からないのに、颯への想いだけが、我慢できずに、涙になる。

「……私ね、颯がね……ひっく……颯が」 

「これじゃあ、あの日と一緒だな」 

「あの、日……」

颯は、スラックスのポケットから、白いハンカチを取り出すと、私の目尻にそっと押し当てた。

波の音がザァーーッと押し寄せる音が、心地よく響いて、記憶の欠片が、波の音と共に引き寄せられる。

私の表情を眺めながら、颯が、ハンカチを広げて意地悪く笑った。

「シンデレラの忘れもの」

白いハンカチの端には、『綾乃』と猫のマークが赤い糸で刺繍されている。見間違えるはずがない。私の母の形見の品だ。

記憶の欠片が、靄のかかっていた部分に、まるでパズルのピースのようにぴったり嵌まっていく。

「これ……私の……あの時、男の子に会って……」

「思い出した?」

颯が、少年みたいな笑顔でニッと笑った。

「颯……」

どうして、分からなかったんだろう。どうして、気づかなかったんだろう。

私と颯は会った事がある。たった一度だけ。


ーーーー颯だったんだ。

あの日、私が、海で泣いていた日に出会ったのは。
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