23時のシンデレラ〜ベッドの上で初めての魔法をかけられて〜
「いまは、颯、あなたのことが、たまたま、お気に入りみたいだけど、すぐに、抱き飽きてポイされるから」 

「え?」

「颯から聞いてないの?今までもそうだったから、何度か抱いて、抱き飽きたら、バイバイ」

実花子が腕を組みながら、首を傾げた。

「何その顔、まさか、颯が、本気であなたを好きだとでも思ってんの?」

「それは……」

私は、唇をぎゅっと噛み締めた。

「馬鹿ね、颯の言葉、間に受けて」

ーーーー実花子の言う通りだ。全身の血が真っ逆さまに落ちていくみたいな感覚になる。

(馬鹿みたい……)

そうだ、あの『23時の王子様』である颯が本当に私なんかを一目惚れする訳ないのに。

途端に何処かで、浮かれていた自分が恥ずかしくて、目の奥が熱くなってくる。

「ちなみに、颯が、一年も付き合ったのも、私が初めてなの。私以外は、1ヶ月もてばいい方ね」

私も1ヶ月後には、颯から見向きもされずに、バイバイされてるのだろうか。
私は唇を結んだまま、俯いた。何か言葉にしようとすれば、涙が(こぼ)れてしまうから。
実花子の前では、泣きたくなかった。

「あとね、私は、颯が未だに忘れられない。だから、あなたが婚約者だなんて認めないし、颯を分かってあげられるのは私だけだから。話はそれだけよ」

実花子は、トレンチコートを翻すと、小気味のよいピンヒールの音を鳴らしながら、更衣室の扉を閉めた。

その瞬間、ポタンと音を立てて、床に転がったのは、自分の瞳から溢れたモノだ。

颯と私じゃ、釣り合う訳ない。
そもそも、颯は、安堂不動産の御曹司で、私は、コンビニでアルバイトしていた、元派遣社員だ。家柄も良くなければ、自慢できるような経歴も肩書きも何もない。何も持たない私が、王子様のような颯の隣に相応しい訳ないのだから。


その時、鞄の中のスマホが震える。液晶画面に表示された名前は、『颯』。


私は袖口で目元を強く拭うと、急いで通話ボタンをタップした。
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