23時のシンデレラ〜ベッドの上で初めての魔法をかけられて〜
美弥は、一瞬俯いてから、俺の瞳をじっと見つめた。どうやら、美弥は、キスするまで、俺に離して貰えない事が分かっているらしい。俺は、ニヤケそうになる口元に力を入れた。

可愛らしい小さな唇を薄く、何度も開けたり閉じたりしながら、最後にぎゅっと唇を結ぶ。 
その躊躇う仕草に押し倒してしまいたくなる。

美弥の腰を持ち上げて、向かい合うように座らせ直せば、美弥が、俺を見下ろすような格好になった。

「あの、颯……」

緊張してるんだろう。僅かに潤んできた瞳に、こちらからキスしたくなるのを、ぐっと堪える。

「早くしろよ」

美弥は、俺の両肩に細い腕を伸ばして置くと、ゆっくりと顔を近づけてくる。瞳を逸らさず美弥を見つめれば、美弥の大きな黒い瞳に、小さく俺の姿が映り込んだ。

そっと、大きな黒い瞳を閉じれば、俺の唇に、柔らかい感触が、控えめに押し当てられる。

触れてすぐに離れようとする、美弥の唇を、俺は、すぐに捕まえて、塞ぎ直した。

「ンッ……ンン……」

美弥の呼吸に合わせて、上唇も下唇も食べていく。リップ音と美弥の呼吸音だけが暫く響いて、美弥の瞳がとろんとしてから、唇を離した。

「まだまだ練習が必要だな」

「今……のが……精一杯かも……」

「いつでも、特訓してやるから、言えよ」

「だ、大丈夫……。えと、ご飯作るから……」

俺が、ようやく、捕まえていた腕を緩めると、美弥は、いそいそと寝室を後にした。パタリと、扉が閉められたのを確認してから、俺の中の想いは、すぐに溢れ出す。



「……好きだよ」

ーーーーいつ言おうか。いつ言えるだろうか。

こんな風に美弥と暮らせるなんて、夢みたいだと美弥に伝えたら、信じてくれるだろうか。

美弥は、俺のシンデレラだ。8年前、白いハンカチを残して消えてしまったシンデレラ。
白いハンカチを、未だに持ってる俺は、真実を伝えた時、御伽噺の王子様のように、美弥と永遠に結ばれることができるだろうか。

「ニャーン……」

昼寝から目覚めて、ミャーが欠伸をしながら、気持ちよさそうに前足を伸ばしている。

俺は、その姿に、目を細めながら、キッチンから、小さく聞こえてくる、包丁の音に耳を傾けた。
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