23時のシンデレラ〜ベッドの上で初めての魔法をかけられて〜
「颯、お風呂空いたよー」
あの後、今まで行ったことのない、お洒落なレストランでイタリアンを食べて、帰ってきた私達は、交互にお風呂にはいることにした。
颯からは、一緒に入るかと揶揄われたけど、明るいところで裸を見せ合うなんて、そんな恥ずかしいこと到底、私には無理で、勿論断った。
「あれ?颯」
見れば、颯は、バルコニーの手摺りに腕を預けながら、こちらに背を向けて誰かと電話をしている。
私は、冷蔵庫から、冷やしておいたルイボスティーをグラスに注いで、テーブルの上のペンギンのぬいぐるみに目を細めた。
「可愛い」
帰りの車の中で、颯から、もらった物だ。動物園にいる間中、颯はずっと手を繋いでいてくれた。きっと、一度だけ手を離して、私がお手洗いに行ってる間に、買ってくれたのだろう。
掌サイズのペンギンのぬいぐるみは、つぶらな黒い瞳をしていて、どこか危なかっしくて、そそっかしくて、私と似てるっていうのも、あながち間違っていないかも知れない。
「似てるのかな」
ツンと突けば、バランスを崩して、コテンと倒れた。慌てて、私は起こしてあげる。
「……楽しかったな」
今日は、本当に楽しかった。デートが初めてだったからじゃない。
ーーーーきっと颯とのデートだから。
だから、あんなにも胸が弾んで、颯が隣にいる事がただ、嬉しくて、私だけを見つめる瞳に吸い込まれてしまいそうで、幸せだった。