23時のシンデレラ〜ベッドの上で初めての魔法をかけられて〜
実花子の姿が、完全に見えなくなってから、溢れた涙を、手の甲左右に動かして、雑に拭うと私は、よろよろと立ち上がる。

ーーーーその時だった。


「美弥」

聞き覚えのある優しい声が、後ろから聞こえてきて、私が、振り返る前に、私の左腕を大きな掌が包みこんだ。

そして、向かい合うと、私を安心させるように、髪を漉くように撫でた、

「……千歳くん……」

「遅かったから、気になって……おいで、ゆっくり話そう」

私は、頷いて、言われるがままに、千歳に手を引かれて資料室へと向かっていく。

僅かにスカートのポケットに入れているスマホが震えた気がしたが、今は、何も考えられなかった。

実花子に言われた言葉だけが、ぐるぐると回る。


ーーーー颯には忘れられない人がいる。


たったそれだけの言葉が、昨日楽しかったデートも、ベッドで優しく抱きしめられた温もりも、偽りだったらと堪らなく不安になって、心が凍りつきそうだった。
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