23時のシンデレラ〜ベッドの上で初めての魔法をかけられて〜
「颯っ!」

「美弥は、黙ってろ」

千歳は、顔色一つ変えずに、颯と視線を合わせたまま、私の左手をぎゅっと握りしめた。

「嫌だって言ったらどうします?」

「殴る」

「どうぞ」

「ふざけてんの?」

颯の右手に、ぐっと力が篭るのがわかった。

「美弥は、颯先輩と居たら、幸せになれない」

千歳が、ゆるりと唇を持ち上げるのと、颯が私の右手を離すのが同時だった。颯は、千歳の胸ぐらを掴む手を、左手に持ち替えて、右拳を振り上げた。

「颯!やめてっ!」

無意識だった。咄嗟に千歳に覆い被さるようにした私に、颯が、奥歯を噛み締めるのがわかった。

「美弥」

体が強張る。颯が、私を自分のモノだと、主張するように声色低く、私の名前を呼んだ。その瞳が、激しい嫉妬を纏っているように、見えるのは気のせいだろうか。

颯の声に返事をする前に、颯が、ゆっくりと千歳から手を離した。そして、千歳が繋いでいた、私の手から引き剥がすようにして、強く私の手を握り直した。

「帰るぞ」

「えっ、颯っ……」

事務所扉が、閉まる間際に、隙間から見えた千歳の顔は、眉間に皺を寄せ、唇を噛み締めていた。
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