green mist      ~あなただから~

新しい時間

~香音~

 あのトラブルから一週間。月曜日、今日は銀行へ向かう日だ。

 この間、弁護士の彼が停めてくれたスペースに車を停めた。動かしやすい場所だったからだ。
 彼は銀行に来ているのだろうか?
 
 ロビーの観葉植物達を丁寧に確認する。テーブルの上ある小さなパキラは。持ち帰って手入れをした方がいいだろう? 葉が茶色くなってきている。もう、すでに落ちている葉もある。

「お疲れ様…… あの後は大丈夫だったかね?」

 その声に振り向くと、ドライブレコーダーのおじいさんが、ソファーに座っていた。


「あっ。あの時は、ありがとうございました。ちゃんとお礼も出来なくてすみません」

 大きく頭をさげた。

「そんなものいいよ。怖かっただろ?」

「ええ」

 思い出すと、嫌な気分になる。


「そのパキラは持ち帰るのかね?」

「はい。少し、葉が茶色くなってきていますし。クーラーの風が直接当たっていたのかもしれません」


「そうだねえ。私は、ドライブがてらここまで来て、この緑を眺めるのが楽しみでね。ちょっと遠いが、この銀行で用事も済ませておるんだよ」

「えっ? そうなんですか?」

 確かに、この銀行は緑が多くて癒される環境だが、まさか、わざわざ来る人がいるとは思わなかった。


「あなたが、植物達(・・・)に話しかけるように世話をしている姿も好きじゃよ」

「誰かが見ているなんて、思ってもいなくて…… 恥ずかしいです」


「そうかな? 結構、あなたの姿を見たいと思う人は多いと思うが……」

 おじいさんが、フロワーを見渡した。私もつられて、ぐるりと辺りを見渡した。

 あっ。弁護士さんだ。
 忙しそうだが、お茶など飲めるのだろうか? 今日は、私がおごらねば。


 植物の手入れを終え、おじいさんとも別れた。

 パキラを抱え外に出ると、子供達の声が賑やかに響いていた。下校の時間なのだろう。
 うん?
 歩道を歩く男の子たちの様子が気になって、パキラを地面に置いた。

「おまえ、二年生なのに、なんで字がかけないんだよ。ほら、書いてみろよ」

 ランドセルを負った男の子が、小枝を手にしている。真ん中で小さくなっている男の子を、小枝でつつきだした。

 たまりかねて、男の子達の元へと歩いた。


「何しているの?」

 その声だけで、男の子達は走り去ってしまった。
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