green mist      ~あなただから~
 銀行から出て、駐車場に向かうと、さっきの彼女が車に乗り込む姿が見えた。ライトグリーンの軽のバンのドアに、グリーンミストと書いてある。会社の車なのだろう。

 ゆっくりと動き出した車はそのまま出口へと向かっていたが、駐車場に止まっていた黒い車が急に出てきた。危うくぶつかるところだ。運転席の彼女を見ると、驚いたのか真っ青な顔をしている。

 それなのに、黒い車から降りてきた男は、周りも気にせずに怒鳴り始めた。車から、無理やり下ろされた彼女をみて、迷う事なく足が動きだした。
 今にもと飛びかかかりそうな男と、動けずにる彼女の間に割って入った。

 そのぐらいですぐに、引き下がる奴はいない。

 彼女を見ると、怯えているのがわかる。あまり、揉めない方がいいだろう。俺は、ポケットから名刺を出し、警察を呼ぶと言うと、案の定、男はうろたえだした。

 いつからいたのか、隣にいたおじいさんが、ドライブカメラに映っていると、車を指さした。
 へっ? この角度からじゃ、映っていない事はまるわかりだが、この際使わせてもらおう。

「それは、助かります」

 男は、逃げるように車に乗り込もうとしたが、そうはさせない。

「ちょっと、待って下さい。あなたの不注意で、事故になるところだったのですよ。彼女にちゃんと謝って下さい」

 人として謝るのは当然の事だ。
 
 
「うっ…… すまなかった…… これでいいだろ?」

 男は逃げるように車に乗り込んでしまったが、彼女の車が邪魔をして動かせないようだ。

「わるいが……車を動かせてくれませんか?」

 男は弱々しい声で言った。


 彼女が慌てて車に乗り込もうとしたが、ドアを開ける手が震えているのが目に入った。咄嗟に彼女の車に乗り込み、彼女にベンチで待つよう指示した。


 彼女の車を、比較的出しやすい駐車スペースに停めた。


 肩を落として、ポツンとベンチに座る彼女が目に入った。近くの販売機で、ペットボトルの水を二本買うと、彼女の元に向かった。

 遠慮がちに受けっとった水を、彼女は一気に飲み干してしまった。
 少しは落ち着くといいんだが……
 怖かったよな……


 上手く、気の利く言葉が見つからない。ただ、あの怯え方が気になった。それとなく聞いてみると、彼女は少し前に事故を起こしてしまった話をしてくれた。

 彼女にしてみれば、最悪の気分のはずだ。だけど、俺は、彼女とベンチに並んで座っているこの時間が、なんだか居心地が良かった。最近、忙しくてほっとする間もなかったかからかもしれない。


 ペットボトルの水一本で、お礼をしようとする彼女の姿にふと笑みが漏れた。

「では、僕も時々銀行に来るので、偶然にでもお会いしたら、また、お茶でものみましょう……」

 
 自分でも、よくもそんなセリフが言えたものだと呆れる。

 だけど彼女は「はい」と返事をして、柔らかい笑顔を向けてくれた。
 やばい、また、膝が……

 しばらくは、銀行に来ることが多い。また、会えるな。
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