green mist      ~あなただから~
 パキラを車に積み込み、手入れの道具を取りにもどろうと、銀行の入口に向かったのだが……シャッターが閉まっていた。

 しまったぁ。窓口の営業時間が終わってしまったようだ。
 どうしよう…… 裏口から、事情を説明して開けてもらうしかない。

「いたいた。忘れていますよ?」

 突然の声に振り向くと、銀縁眼鏡の弁護士さんが立っていた。

 驚いて、目を見開いた。

「あっ。ありがとうございます」

 急いで頭の中を整理する。そうだ、飲み物!

「いえいえ」


「あっ。飲み物買ってきます。ベンチで待っててください」

「おっ、おい」

 弁護士さんの声が、背中に聞こえたが、自動販売機に向かって無我夢中で走った。


 だが、自動販売機に小銭を入れたのはいいものの、何を買ったらいいのか分からない。じっと並んだ飲み物を睨んだ。すると、頭の後ろから腕が伸びてきて、プシュッ、ガタガタと音を立てた。

 取り出し口に手が伸び、コーヒーの缶が取り出された。


「僕、コーヒーはブラックしか飲まないんです。ジュースもほとんど飲みません。ほっといたら、全種類買ってしまうんじゃないかと思いましたよ」

 缶コーヒーを手にして立っているのは弁護士さんだ。


「あっ。まさか、全部なんて買いませんよ。数本買おうかな?と、思っただけです」

 彼と同じ、ブラックのコーヒーのボタンを押した。この時、彼が私の忘れた荷物を抱えている事に気づいた。

「何から何まで、すみません……」

 恥ずかしいやら、なにやら……


「いいですよ。車まで運びますね」

「そんな、自分で持ちます。スーツが汚れてしまいますから……」

「もう、ここまで持ってきたので。綺麗な荷物なので大丈夫ですよ」


「すみません……」

 小さくなって頭を下げた。
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