green mist      ~あなただから~
 「いただきます」

 彼は、丁寧に頭を下げ、プシュッツーと缶コーヒーの蓋を開けた。この前と同じベンチに並んで座り、私も缶コーヒーの蓋を開けた。

「お忙しいのに、忘れ物届けて頂いたり、勝手にお茶に誘ってしまったりしてすみません」

 彼の状況も聞かずに、焦って誘ってしまった事を今になって反省した。

「そんな事は、ないですよ。丁度帰るところでしたし、コーヒーも飲みたいと思っていたとので」

 彼は、ちらりとこちらを見て優しく微笑んだ。すごく大人の男の人に見えた。私の周りにはいないタイプの人だ。


「あの、先日はありがとうございました。部長が、会社からもお礼に伺いたいと言ってました」


「えっ。そんな事までなさらないで下さい。これで十分ですよ」

 彼は、コーヒーの缶を軽く上にあげた。


「これじゃ、お礼になんてならないです!」

 必死になって、彼を見たのだけれども……


「それより、あの後は大丈夫でしたか? 嫌がらせとかは?」

 あっさりと交わされてしまった。



「何事もなく済みました。本当に、適切に対応して頂いたおかげです。あの……」

 あの日の出来事から、ずっと思っていた事がある。

「はい?」

「戦い方って、色々あるんですね?」

「えっ?」

「すみません変な事言って。私の父は、優しい人なのですけど、若い頃喧嘩が強かったらしく、昔から何かトラブルがあると、相手を怒鳴ったり、殴ったりした事もありました。でも、それが強くてカッコいいと思っていました。
 この前、弁護士さんは、怒鳴るわけでも、殴るわけでもないのに、相手はちゃんと反省して、その上、後も揉める事もなくて…… すごいなって……」


「たいした事ではないですよ。職業柄そうなっただけです。お父様も、必死であなたやご家族を守っていたのだと思いますよ。それと…… 弁護士さんと、呼ばれるのはちょっと……」


 あっ。弁護士さんは失礼か? 凄い人だと思って、名前で呼ぶのを躊躇してしまっていた。名刺の名前を思い出す。


「あっ。時川さんでいいですか? でも…… 弁護士さんは先生って呼ばれるのですよね? ドラマで見ました」


「時川でいいです」

 彼は、面白そうに笑った。
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