green mist      ~あなただから~
 「なるほど……」

 彼は少し考えて、鞄からノートパソコンを取り出した。

「君、ローマ字は読めるのか?」

「うん。読めるよ。僕の名前は、緒方良介」

「じゃあ、名前入力してみる?」

「うん。えーっと」

「おがたは、OGATA」

 良介は一度キーボードの位置を確認すると、RYOTAの指示に、直ぐに入力してしまった。

「パソコンはやった事あるのね?」

「たまに、動画の検索はするけど、パパが居ない時は使っちゃだめだから」


 それにしては、キーボードの位置の把握が早い気がするが……

「今日の宿題は何だ?」

 彼が聞くと、良太はランドセルから、漢字のドリルを出した。

「読み仮名を入力できるか?」

「えーっと。きょうだいだから、Kは?」

「ここだ」

 彼が指を指す。良太は、一度使った文字は覚えてしまったようだ。

「できた!」

 十問ほどの、問題をあっという間に入力してしまった。

「凄いな」

「えへっ」

 良介は自慢げに、笑顔を向けた。

「なぁ…… 今はちょっと大変かもしれないが、とにかく出来る事をやれ。書けないからと言って、読む事も諦めちゃだめだ。何でもいい、教科書でも本でも、何でもいいから読んで覚えろ」


 彼は、良介の頭を撫でた。


「うん。頑張ってみる。おじさんありがとう。文字って書くだけじゃないんだね。宿題もパソコンで出来たらいいのに。パソコンの授業は、三年生からなんだ」


「そうか。また、教えてやるよ。気を付けて帰れよ」

「うん。バイバイ」


 良介は手を振って帰って行く。

 タブレットの画面の時刻を見てはっとする。もう一件まわらなければならない。せっかく彼が声をかけてくれたのに、あまり話が出来なかった。たまたま、話しかけてくれただけだと思うが、ちょっと残念な気がした。


「あっ。私も戻らなきゃ。ありがとうございました」

「そうですよね。気を付けて」

「はい」

 ペコリと頭を下げて車へと走った。走りながら顔が緩んでくる。なんか、楽しかったな。
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