green mist      ~あなただから~
 ~真央~

 別にわざとじゃない。偶然、銀行への案件が増えただけだ。たまたま、フロワーに行く用事があっただけだ。

 シュッ、シュッ

 霧吹きの音。
 それだけじゃない、彼女がいる事を感じる。雰囲気なのか? 空気なのか?


 声をかける理由はある。先日の事が心配なだけだ。自分に言い聞かせてロビーに出ようとしたのだが……
 俺より先に彼女に声をかける人物がいた。あの、インチキドライブレコーダーのじいさんだ。じいさんも彼女を助けたのだから、話をしていてもおかしくはない。しかし、彼女が、親しげに話しをしながら、植物の手入れを行っているため、なかなか声をかけるタイミングを見つけられない。

 仕方なく、業務に戻る事にした。こんな時に限って、担当者に呼び止められて時間を取ってしまった。
 フロワーに戻ると、もう彼女の姿は無かった。

 うん?
 あれは、ソファーと植木鉢の間に、大きめのケースが見えた。霧吹きが入っているのが分かる。彼女のものだろうと思ったのと同時に、ATMとフロワーの間のシャッターが下り始めた。

 取り合えず、彼女の荷物らしものを持って外に出ると、慌てて戻ってくる彼女の姿が見えた。降りてしまったシャッターを呆然と見つめている。思わず、噴き出してしまった。

「いたいた。忘れていますよ」

 彼女に声をかけると、驚いたように俺を見た。

 やばい。何故、ドキッとした?
 一瞬もたついたすきに、彼女が飲み物を買いに走ってしまった。もちろん、彼女に買わせるつもりなんて無かった。
慌てて追いかける。彼女の荷物を持ったままだが……

 自動販売機の前で立つ彼女の横から、コーヒーのボタンを押した。

「僕、コーヒーはブラックしか飲まないんです。ジュースもほとんど飲みません。ほっといたら、全種類買ってしまうんじゃないかと思いましたよ」

 早くしないと、あらゆる飲み物を買ってしまうんじゃないかと思ったのは確かだ。

 やっと彼女は、俺が荷物をもっている事に気付いたようだ。

「何から何まですみません」
と、小さくなっている彼女の姿を、面白いと思ってしまった。
荷物を持つぐらいで、こんなに面白いと思えるなら、容易いごようだ。


 この間のベンチで並んで座り、コーヒーを飲む。夏の終わりの風が涼しく、気持ちがいい。

 彼女は、何度も先日のお礼を言ってくるが、俺にしてみればたいした事をした分けじゃない。

 だけど、彼女との会話に何故か違和感がある。
 あーこれだ。
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