green mist      ~あなただから~
 「あ…… 弁護士さんと、呼ばれるのはちょっと……」

 別に弁護士さんと呼ばれる事は、いくらでもある。だが、彼女に呼ばれるのは、なぜか嫌だと思ってしまった。

「あっ。時川さんでいいですか? でも…… 弁護士さんは先生って呼ばれるんですよね? ドラマで見ました」

 えっ? ドラマって…… 先生はもっと嫌だ。
 でも、彼女の深刻そうな顔に、ふっと笑みが漏れてしまった。

「時川でいいです」

 別に、彼女の名前を聞いてもいいよな? 俺の中の俺に聞いた。


 水野香音。名前を聞けた事に、少し距離が縮まった気がした。


「水野さんですね。水野さんは、ここにはどのくらいのペースで手入れに見えているのですか?」

 怪しい人とか、気持ち悪いとか、思われなかったろうか?

「 こちらの銀行には、毎週月曜日に手入れに回っています」

 なんの躊躇もなく、答えてくれた彼女にほっとした。
 そして、来週の月曜の予定を、頭に浮かべたのだった。



 なんとか予定を調整して、月曜日に銀行の訪問を入れたが、オフィスの人間に違和感なかったようだ。そもそも、予定の管理は自分で行っている。

 彼女の会社の車が止まっている事を確認して、銀行に入ったのだが、また、あのじいさんがソファーに座り、ニコニコと話しかけている。動画に例えたら、植物の手入れをしている彼女の映像に、部外者が入り込んで来た気分だ。

 彼女が片付けを始めると、やっと、じいさんは腰を上げた。植木鉢を抱えて銀行から出ていく彼女の姿を、さりげなく追いかけた。

 車のドアを開けてあげるつもりだった…… 
 だけど、なぜか彼女の車のドアを開けたのは、ランドセルを背負った小学生だった。
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