green mist      ~あなただから~
 彼女は帰ってしまうのかと思いきや、男の子とベンチに座って何やら話をし始めた。タブレットまで使い出した。

 俺は、覚悟を決めベンチに近づいた。

「何をしているのですか?」

 彼女が驚いた顔を上げた。男の子も顔を上げたが、チラッと俺を見ると、明らかに嫌そうな顔をした。

「あっ、時川さん。字を練習しているというか…」

 彼女が事の成り行きを、ざっくりと話してくれた。面倒臭い事に巻き込まれなきゃいいがと思うが、彼女は放っておけないのだろう。


 どうしたものかと考えたが、このままだと、このベンチは、この良介という子供に奪われてしまう気がした。何かいい方法はないか考え、鞄からノートパソコンを取り出した。
 キーボードの入力を試してみる。意外に覚えが早い。大学の友人の息子がLDと話していた事を思い出した。状況が良く似ている。

 だからと言って、他人に何が出来るのかは慎重に考えなければならない。ただ、確実に言えるのは、彼女がかかわる事が、あの少年にとっての味方であり、自信に繋がっているのだ。まあ、俺にはここに居る口実が出来たのだが。


 そんなこんなで、月曜日に銀行へ行くと、じーさん、あの子供と必ず遭遇する。


「なあ、あのじいさん毎日来ているのか?」

 たまりまりかねて、後輩の金田に聞いてみた。


「ああ。毎日じゃないですよ。月曜日だけ。それなりに銀行の用事も済ませていますけどね」

「えっ? 月曜日だけ?」

「グリーンミストさんが目当てだと思いますよ。なんとなく、月曜日のこの時間は客が多いんですよね。最近じゃ、小学生まで来ますから」

 金田が目を向けた入口を見ると良介が入ってきた。明らかに俺をチラッと見て、嫌そうな顔をした。彼女の前では、いい子で勉強を教わっているのに。なんだ、あの目は?


「銀行としたら、迷惑じゃないのか?」

「別に、彼女が来ると、植物を手入れしているせいか、なんか空気が潤うんですよね。童話のお姫様のワンシーンでも見ている気がして、癒されるっていうか。そういう人多いと思いますよ。少なくとも、うちの若い職員は、ニヤニヤしていますしねぇ」

 あらためて周りを見渡すと、ちらちらと彼女を見ている、男が数人いた……

 なんだ、これ。俺だけが、気にしているって事じゃないのか? なんだかモヤモヤする。
< 22 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop