green mist      ~あなただから~
 ライトグリーンの車体に社名が貼られた車に乗り込みエンジンをかける。こういう時は運転に集中しなければと、左右を確認してハンドルを切った。直進して駐車場の出口へ向かった。

 きゃぁっー

 突然、目の前に黒い自動車が表れて、慌ててブレーキを踏んだ。危機一髪で車が接触せず、ほっと胸を撫で下ろしたのだが……
 
 黒い車の運転席が開き、明らかにガラの悪そうな男が降りてきた。

 えっ? 私悪くないよね?

「おい! どこ見て運転してるんだ!」

 その男は、運転席をのドアを開けると、私に降りるように指示して来た。

 えー。何で、怒られなきゃいけないの? 
 頭では分かっているけど、言葉が出てこない。


 その男は、私の乗る車のドアに書かれた、グリーンミストとの文字を見て言った。
 
「会社の車か? 勤め先にばれたら嫌だろ?」

 バレたっていい。突然出てきたのは、この男の方だ。
 だけど、ギラギラした目に威圧感があって、なんか嫌だ。どうしよう……


「とりあえず。警察呼びますね……」

 なんとか声を出し、スマホをポケットから取り出した。

「はあ? こっちは忙しいんだぞ!」

 今にも掴みかかってきそうな勢いだ。

 一歩後ろにたじろいた時、私と男の間に、スッと一本の腕が伸びてきた。

「なんだ、お前!」

 相手の男が、腕が伸びてきた方に向かって睨みをきかせた。


「彼女は悪くないと思いますよ。あなたは、まだ駐車スペースの中に車があります。あきらかに彼女の方が優先だと思います」

 落ち着きのある、男の人の声だ。

「はあ? あんたには関係ないだろ?」

 あっ。
 細身で背が高くて銀縁眼鏡。この、穏やかな表情。さっき、銀行に居た人だ。

 助けてくれるのは嬉しいけど、大丈夫なのだろうか? なんか弱そうだけど殴られでもしたらどうしようと思ったのだが……


「そうですか? では、警察呼びますね。僕が証言しますので」

 男の脅しに動じない、淡々とした声だ。


「お、おい。そんな大げさな話じゃない。だいたい、あんたには関係ないだろ!」


「申し遅れました」


 その彼は、内ポケットから名刺入れを取り出した。


『弁護士 時川(ときかわ) 真央(まお)


 の文字が目に飛び込んできた。

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