green mist      ~あなただから~
 弁護士さん?

「他にも、見ておられた方がいらっしゃるようなので、確認させてもらいますね」

 弁護士の彼が辺りを見渡すと、車から少し離れた場所で、こちらを見てこそこそ話をしている人達がいた。

「わしも見ておったぞ。車のドライブなんとかってカメラに映っておるかもしれん」

 いつの間にか、近くに来ていたおじいさんが、隣に止めてあるエンジンのかかったままの車を指さして言った。

「それは、助かります」

 弁護士の彼が言うと同時に、


「ああー もういいよ」

 男は、両手を振って車に乗り込もうとした。


「ちょっと、待って下さい。あなたの不注意で、事故になるところだったのですよ。彼女にちゃんと謝って下さい」

 弁護士の彼が、さっきまでの穏やかな表情を変え、厳しい目を男に向けた。

「そうじゃよ」

 おじいさんも、後に続いて言った。


「うっ…… すまなかった…… これでいいだろ?」

 男は、逃げるように車に乗り込んでしまった。

 弁護士の彼は、仕方ないとでもいうように、ふうーっとため息をついた。

 すると、男の黒い車の窓が開き始めた。


「わるいが、車を動かせてくれませんか?……」

 さっきの勢いとはまるで別人のような、情けない声が漏れてきた。

 私の車が邪魔をしていて、車を出せないのだ。

「あっ」

 慌てて車に乗り込もうとしたが、手が震えてうまくドアをあけられない。


「僕が動かしますね。あちらのベンチで少し休んでいて下さい」

 弁護士の彼が、サッと車に乗り込んだ。

「すみません」

 頭を下げたが、彼には見えていないだろう……


「よかったね」

 さっきのおじいさんが、にこりとして自分の車に戻って行った。


「ありがとうございました」

 私は、深々と頭を下げた。


 とりあえず彼に指示された駐車場の横にある、木陰のベンチにストンと腰を下ろした。
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