green mist      ~あなただから~
 さっきまでのテンションが一気に下がって行く。頭を冷やそう。映画で盛り上がって、調子に乗りすぎた。彼にとったら、親戚の子でも連れている程度の事かもしれない。
 彼は、宮野さんに、私の事を何と説明したのだろうか? 知るのが怖い。


 気持ちを切り替え、トイレから出ると、まだ、彼は宮野さんという女性と、親しげに話しをしていた。二人の姿が大人の男女に見えて、遠く感じた。当然、私を待っていると言った、待合スペースなどには居ない。

 声をかけるべきだと思うが、足が二人の方へ向かっていかない。

 近くのショップに入り、服を見て回った。ずっと、欲しいと思っていたワンピースを充ててみるが、なんだか色褪せて見えた。宮野さんの着ていた、ベージュとブラックの切り替えのあるワンピースがチラつく。大人の女でなければ着こなせない。
夕べ何度も試着して決めた、お気に入りのワンピースが鏡に映り幼く見えた。

 どうしようかな? チラリと二人の居た場所を見るが、まだ、話しをしている。

 向かいの雑貨店に入ると、映画が話題になっている事もあって、並んだ恐竜のぬいぐるみが目に入った。ティラノサウルスを手に取ってみると、口を開けているのに、笑ってみえる。頭をポンポンと叩くと、なんだか親近感が沸いた。


「ここにいたんですか?」

 恐竜のぬいぐるみを、のぞき込むように彼が立っていた。

 一瞬だけど、彼の目を見る事が出来なかった。


「ああ。お話し中だったので、先に見ていようと思って」

 すぐに私は笑顔を作った。さっきと変わらない、笑顔のはずだ。何も気づかれてはいない。


「声をかけて下さいよ。遅いので心配しました」

「ごめんなさいい」

 小さく頭を下げるが、とても声なんてかけられなかった。


「こちらに居る姿を見つけたので大丈夫です。さっきの恐竜ですね」

 彼も、ティラノザウルスのぬいぐるみを手にした。


「可愛いですよね」

「なんだか親近感が沸きますね。記念に買いましょうか?」

「えっ? ぬいぐるみをですか?」

「僕だって、ぬいぐるみぐらい買いますよ」


 彼は、腕に抱えてみせた。

「あははっ。では、映画もお昼もごちそうになったので、私が買います」

「いえいえ、僕が買います」

「それじゃあ、あまりにも……」

 買ってもらう事が嬉しくないわけじゃない…… ただ、子ども扱いされている気がするだけ……


「では、あなたの分を僕が、僕の分を水野さんが買うというのは、いかがでしょう?」

「はい」

 彼は、やっぱり大人だと思う。
< 32 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop