green mist      ~あなただから~
「次は、どこを見て回りますか?」

「ああ…… さっき、気になっていたお店を見たんですけど…… 思っていたものと違ったので。今日は、いいです」

 全くの嘘じゃないが、これ以上、彼の貴重な休日を使うのは迷惑な気がした。
 私は、彼に悟られないよう、頑張って笑顔を見せた。

「それでは、別の所へ行きましょうか?」

「そうですね…… でも、夕方、母が来る事になっているんです」

 咄嗟に出た嘘だった。

 有頂天になって、彼に接していた自分に蓋をしたい。このまま、一緒にいるのは苦しかった。それに、こんな心の内を知られるのは、絶対に嫌だった。

「そうでしたか……」

 少しだけ、彼の表情が曇った気がした。


 車に乗り込むと、彼がカフェでアイスコーヒーを買ってくれた。凄く、嬉しいけど。胸の奥の方が痛い。


「あの、新しい案件が入りそうで、来週から忙しくなります。銀行にはしばらく行かれないかもしれません……」

 彼の目が、何か言いたげに見えたが、これ以上、何かを聞くのが怖かった。

「えっ。お忙しいですものね」

 凄く、がっかりしている自分がいた。あの時間だけは、隣に座っても許される気がしたからだ。

 偶然とは言え、会う事が減ってしまったら、彼は私の事など忘れてしまうのだろうか……

 だからといって、何か約束でもしてしまったら、自分が勘違いしてしまいそうだった。

 結局、傷つくのだと思うと、何も言えなくなってしまった。

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