green mist      ~あなただから~
 ~真央~

 オフィスに戻り、自分の部屋の椅子にドサッと座った。

 コンコン、ドアがノックされる。

「はい」

 返事をすると、秘書の女性が入って来た。

「お疲れ様です。代表が会議室に来るようにとの事です」

「ああ」


 この事務所は、弁護士である両親が代表を務めている。母が事務所の主導権をほぼ握っており、父は自由な人であまり利益にならない弁護士業行っているのが実態だ

 俺は、弁護士の経験を積むため、大手事務所にいたが、両親がそろそろ引退したいなどと言うものだから、数か月前にこの事務所に席を構えた。


 スマホの画面を見る。本当に、良介は連絡をしてくるのだろうか?

 代表が呼び出しというのは、おそらく新しい案件の事だろう。忙しくなる予感に、軽く息を吐いた。



 良介から連絡が来たのは、二日後だった。正直、諦めかけていた。
「おじさん? 駅前の新しい居酒屋だって」

 見慣れない番号に、両親の目を盗んで、こっそりかけてきたのだと察した。


「そうか。ありがとう」

「うん。おじさん頑張って」

 良介は、それだけ言うと、すぐに電話を切ってしまった。


 そのまま俺はスマホをスライドし、ある男に電話した。


「珍しいな、こういう店に呼び出すなんて」

「まあ、たまにはいいだろ?」

「まあな。事務所はどうだ? 忙しいか?」

「ああ、お陰様で」

「親の後を継ぐ立場となれば、色々と大変だろうな? しかも、両親そろって弁護士とは言え、全く別の事やっているからな」

「全く。それで、お前に話があるんだ」


 この男は、前のオフィスで同期だった男、矢沢智樹(やざわともき)、プライベートはともかく弁護士としては信頼のおける男だ。

 矢沢と話をしたい事があったのは嘘ではない。ただ、別の目的があったりもする。入口が開くたびに、目を向けてしまう。

 あっ、来た。

 だけど……
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