green mist      ~あなただから~
 約束の時間に彼女のアパートまで、車で迎えに行く。
 少し遠いが、ショッピングモールに併設されている映画館を選んだ。


「えっ? これを見るんですか?」

「はい。恐竜はお嫌いですか?」

「…… いいえ」

 嫌いではないが…… ちょっと、思っていたものと違う気が……


 しっかり映画の中に入ってしまった。

 突然現れるラプトルに、悲鳴をあげていた事に気付いたのは、だいぶたってからだった。エンドロールが流れるころには、俺は彼女の手をしっかりと握っていた。

 はっと気づいた時には、彼女の手はそっと離れていた。細くて柔らかい手だった。もう少し、握っていたかった。
 おじさんが手を握って、気持ち悪いとか思われなかっただろうか?


 ランチも、彼女は俺の事をからかって、ケラケラと笑っていた。からかっているのが分かっても、ぜんぜん悪い気はしない。どちらかと言えば、楽しい。

 そう、彼女がトイレに行くまでは……


「あら、時川君じゃない?」

 誰だ、こんなところで話かけてくるのは?

「ああ、宮野」

 彼女は、軽く挨拶をするとトイレに行った。


 宮野とは話などするつもりは無かったのだが……

「時川君が、ショッピングモールに女の子と一緒にいるなんて以外ね?」

「そうか? 俺だって買い物ぐらいする」

「そうじゃなくて、若い子と一緒って事よ。彼女?」

 ちょっと動揺している自分がいる。少し、返事に詰まった。


「……いや」

 相変わらず、甘ったるい香水だな。


「ふーん。そうよね。あんな若い子じゃ、時川君の相手は難しいかもね」

 どういう意味なんだか。


「そろそろ行くよ」

「彼女が出てくるまでいいじゃない。事務所、忙しい? 人では足りてるの? 私が手伝ってもいいけど」

 確かに宮野は仕事は出来るが、なんというか波長が合わない。

「いや。それほど忙しくはないよ。たいして大きな事務所じゃないからな」

「そんな事はないでしょ。これから、大きくなっていくって弁護士の間じゃ、話題になっているわよ」

 そんな話題はないだろ。宮野が作っているだけだ。昔から、勝手にそんな事言っていたからな。


 それにしても、彼女遅いな?

 トイレから出てくれば、見える場所にいるのに。あまり、トイレの入り口を見ているのもと思い、敢えて背中を向けていたのだが。

 待っていると伝えた場所だって、ここから見えるのだが彼女の姿はない。また、変な男にでも声をかえられているんじゃないだろうな。

 気になって辺りを見回してみる。

 あっ。雑貨屋の中に、彼女の後ろ姿を見つけた。

 宮野は、まだ何か話していたが、どうでもいい。

「じゃあな」

 適当に宮野の話を切り上げ、急いで雑貨屋に向かった。
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